黄美那(ファン・ミナ)著「ユニ 允姫」全1~2巻 完結
今から20年以上前に、週刊モーニングに何度か掲載されました。 当時は今ほど日韓関係が冷え込んでいなかった頃です。 単行本も20年以上前の発行なので今は絶版となっており、なかなか手に入りませんがアマゾンなどでは古本として、かろうじて流通しているようです。 これは韓国の首都ソウルで、貧民街とさげすまれる地区に住む、名もなき人々の生活を描いた漫画です。
前回紹介した「李さんちの物語」と同じ作者ですが、「李さんちの物語」が普通の家族のドタバタ劇を中心としたギャグコミック(シリアスな場面とも半々ですが)なのに対し、こちらは終始シリアスな話が続きます。
韓国の首都ソウル、そのソウルの中でも「10年は遅れた地域」と見下される、貧しい人々が多く住む貧民街で、小さなカフェを営む美しき女主人ユニは、やはり低所得者向けの連立住宅に弟と住んでいる。
そのカフェに来るお客さんと、ユニが繰り広げる数多のドラマ。
そして、連立住宅に住む貧しい人々が物語の中心になっています。
一緒に住む若い弟をはじめ、故郷に一人残る母親、人をだまして怠けてばかりいる幼馴染、元彼、そして仕方なく手放してしまった幼い息子。
カフェに訪れる客一人一人のドラマ。共同住宅の貧しくも必死に生きる住民たちの喜びと悲しみ。同居する学生の弟ユンホ。どことなく頼りない幼馴染のジェヨン。田舎に一人置いてきた母。別れた男ソンウ。そして不本意にも手放してしまったわが子・ジンス。
特にこの話で気に入っているのは、難病を抱える幼い娘の治療費を捻出すべく、お金に執着するあまり皆から嫌われてしまう中年の海苔巻き売りの女性。
薬を買うために、借金を容赦なく取りたて、海苔巻きが腐っていてもお金をしっかり請求し、終始ケチケチして、ついにみんなからの鼻つまみ者になってしまいます。
彼女を嫌う人は、なぜ彼女がお金に汚いのかを知らないのですが、たまたまそれを知ることになった同じ連立住宅に住む、やはり「守銭奴じじい」と呼ばれるケチなおじいさんが、ひそかに女の子の治療費を全額支払い、ケチな母親は誰の寄付かも分からないまま皆に土下座をしてお礼をするという話。
そこでやっと、この女性がなぜケチなのかを、周囲の住民が知る事になりました。
このおじいさんは朝鮮戦争で愛妻と生き別れになっており、「奥さんに会えたらあげようと思っての!!」とせっせとお金をためていましたが、そのお金を全部、他人の子の治療費にしてしまいます。
そして、ほかに誰もいない部屋で「あの女のやり方は気にくわんが、もしお前が同じ目にあってるかと思うと、放ってはおけないんじゃよ。今回のお金の送り方は良かったかい? なぁ、おまえ・・・」とボロボロになった奥さんの写真に一人語りかけるシーンがグッときます。
「人間の弱さ、愚かさ、罪深さ。それでもなお、いや、だからこそ人間がいとおしい」
ユニが言う名言でありますが、この一言がこの作品の全てを表現していると思います。
その後日本にはヨン様に始まる韓流ブームが訪れます。
華やかできらびやかなドラマや芸能などがたくさん日本にやってきましたが、実際に韓国に行き、華やかなドラマとは違った貧しさに衝撃を受けた日本人も多かったと聞きます。
作者が「この国がいくら豊かになっても、こうして底辺で生きる人々はまだまだ多い」というような事をどこかに書いていましたが、経済発展の中で貧富の差が拡大する韓国も日本も、それこそ平凡な一人一人にドラマがあることを思い知らせてくれる漫画だと思います。
ちなみに、この漫画に出てくるユニが住む「連立住宅」は実際にあり、この漫画に出てきそうな人が実際に住んでいました。
みうけんも何度か「聖地めぐり」をしたことがあります。
韓国に初めて行ったとき、真冬のヤンファ大橋を歩いて渡り、一番最初に行ったのがこの連立住宅でした。
それ以来、この地域や近くの昔ながらの市場が好きで、50回を越える訪韓のなか、毎回欠かさずさん散策しています。
この街は、みうけんの心のふるさとでもあるのです。