JR線の町田駅を降り、南口へ出ます。
すぐに境川の流れがあり、川を渡って相模原市に出れば、現在はラブホテル街となっている、かつて「田んぼ」と呼ばれたところに出ます。
この近く、境川べりに武甕槌命(タケミカヅチノミコト)を祭神にいただく鹿島神社という神社があり、地域の方々から世代を経て篤い崇敬を受けています。
むかし、この辺りを「池の谷戸」といいました。
そこには寺があり、境内には大きな池があったそうです。
この寺には若い寺男がおり、いつかは住職に弟子入りをして、自分も僧侶として仏道に入るべく一生懸命に勤めていたそうです。
しかし、いつしか青春の血には抗う事が出来ず、村の娘を見初めると人目をしのんで会うようになり、夜毎に寺の片隅で逢瀬を楽しんでいたのです。
そんなある春の夜のこと。いつものように娘が家をひそかに抜け出すと、若い寺男の待つ寺へと走って、いつもの甘い恋の時間が始まりました。
その時、突如として地面が揺れだしたのです。
その揺れは実にすさまじく、石の燈篭は倒れ、屋根の瓦が落ち、二人は立っている事すら出来ないほどでした。
ただ抱き合って転がるばかり、なすすべもない二人の上に鐘楼が崩れ落ち、2人は抱き合ったままで釣り鐘の下敷きとなったかと思うと、鐘もろとも池の中に落ちて鐘の下に沈み、そのまま永遠に還らぬ人となってしまったということです。
いま、町田駅からもほど近いこのあたりにはマンションが立ち並び、往時の面影はなくなってしまいましたが、悲恋の恨みは池に残り、幾星霜の時の流れもものともせずに今なお語り継がれています。
時代は昭和から平成、平成から令和と変わる中で池は失われてしまったものの、この鹿島神社の境内から上鶴間の街を眺めているとき、悲恋に敗れた若き2人の姿が目に浮かんでくるかのようで、感慨もひとしおです。
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