JR下溝駅から北東に200mほど行った鳩川のほとりに、天文年間の創建と伝承される下溝八幡宮があり、その祭神は応神天皇、その祭礼は毎年の8月28日である。
正確な創建年は明らかではないが、伝承によると溝郷が上溝村と下溝村に分かれた天文年間(1532~1555)に上溝村の亀ヶ池八幡宮より分霊を受けて建立されたと伝わる歴史のある神社である。
この位置は当時、下溝村の「堀の内」に北条氏照の娘である貞心尼の屋敷があり、その裏鬼門、つまり南西の方角にあたるこの地に神社を設定したのではと考えられているのである。
参道の脇には、こぢんまりとした不動堂が残されており、その中には市の指定文化財である不動明王座像が安置されている。
この不動明王は、もとは八幡宮の別当寺であった大光院の本尊であった。像の胎内銘によれば享保9年(1724年)に大光院の常照上人が
鎌倉扇ガ谷に住んでいた仏師の後藤左近藤原義貴に製作を依頼した記録が残されている。
大光院は明治初期に廃仏毀釈運動によって廃絶され、本尊だけが社務所に保管されていたが度重なる火災で居場所を転々とした。
これに心を痛めた氏子たちが寄附金を募り、やっと不動堂ができて安住の地を得たのが現在のお姿である。
いま、不動堂の扉は固く閉ざされて中の様子を伺うことも叶わないが、ようやく得た安住の家に、さしもの不動明王も笑みをこぼしているかも知れず、流転の旅を続けてきたお不動さまに平安あれと願わずにはおれないのである。