横須賀の大津高校の裏手にあるのが、浄土真宗本願寺派の嶂谷山 信誠寺(しょうこくさん しんじょうじ)である。
この寺はもとは真言宗の寺院であったものを、親鸞上人がこの地に布教に来た時に浄土真宗に改めたものとされている。
この山門を入ったところ、右手に今も聳える大銀杏の木は「連如上人御杖銀杏」(れんにょしょうにん おんつえ いちょう)と呼ばれ、新編相模国風土記稿によれば、蓮如上人がこの地方に布教の旅をされたとき、この寺に立ち寄ったことがあった。
その時に、蓮如上人が杖をこの地に挿したことにより、たちまちのうちに芽が出て、やがて大きな枝葉が繁茂し、今に見るような立派な銀杏の木になったと伝えられている、聞くにも不思議な霊木なのである。
その根元には、「連如上人御杖銀杏碑」がひっそりと建てられており、これといった案内看板や由来書などもないが、確かにこの銀杏の木が蓮如上人の伝説にまつわる霊木であることを今に伝えているのである。
この銀杏の古木には、老婆の乳房のような幹の垂れさがりがみられる。
これは銀杏の古木にはよく見られる「乳根」(ちちね)と呼ばれる光景で、さして珍しいものではないが、この老木に乳の出がよくない婦人が参って祈りを捧げれば、たちまちのうちに乳の出が良くなるという言い伝えが残されている。
早春の境内、ウグイスが滑らかな歌声をさえずる古木の枝を見上げれば、古くなり年老いて大きく割れた幹には数えきれないほどの枝葉が広がり、その先には真新しい枝がついて無数の新芽をつけているさまが見て取れ、はるか昔からこの地に立って人々の暮らしを見守ってきた霊験あらたかな老銀杏に芽吹いた新しい一年が、またこの地で始まろうとしている事ににわかに感動を禁じ得ないのである。