みうけんのヨコハマ原付紀行

愛車はヤマハのシグナスX。原付またいで、見たり聞いたり食べ歩いたり。風にまかせてただひたすらに、ふるさと横浜とその近辺を巡ります。※現在アップしている「歴史と民話とツーリング」の記事は緊急事態宣言発令前に取材したものです。

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一羽の鴨が浪人を導いた 矢切の峯の伝説(横須賀市)

横須賀の久里浜駅のあたりから山あいの方へと進んでいくと、谷戸の谷底に張り付くようにして民家が並ぶ奥に、ひっそりとあるのが日蓮宗寺院である栄久山 等覚寺です。

 

このお寺は戦国時代の天正12年(1584年)6月28日、日大上人によって開山されました。

織田信長が本能寺で討たれて2年後の年のことです。

 

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日大上人は身延山17世・日新上人の信任も厚く、一寺建立を奨められて当地を選んで建立したのがこのお寺です。

 

横須賀・三浦の日蓮宗寺院は京都の本圀寺の流れを汲む寺院が多いなかで、このお寺が身延山久遠寺の直末寺として繁栄したのはそのためです。

 

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このお寺はもともと、さらに谷戸の奥で開山したものの、延宝7年(1679年)現在の地に移ったという事です。

本堂や庫裏はその時期に建てられたもので、今となってはその歴史的価値はかり知れません。

 

また、三浦三十三観音霊場の第16番札所に指定されている観音堂もあります。

こちらの御本尊さまは平安後期の作、横須賀市指定文化財として指定された千手観世音菩薩で、もともと近くの経塚山にあった千手院というお寺が明治の廃仏毀釈運動で廃寺となったために、こちらにお移りになったという事です。

 

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さて、このお寺があるところは、山奥へと古い道が伸びていました。

そこには矢切りの峯と呼ばれる峠があり、不思議かつ、聞くも悲しき伝説が残されています。

 

むかし、この辺りに禅誉上人が隠居していたという、とても古い小庵があったそうです。

その近くには一人の浪人が住んでおり、暇を見ては弓を持ち歩いて鳥や獣を射ては、生活の足しにしていました。

 

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そんなある日、禅誉上人が寺の庭を散歩しているとき、一羽のメス鴨がオス鴨の首をくわえて本堂の前でうずくまり、悲しそうに鳴いているのを見つけたのです。

 

これはあの浪人の仕業に違いない。

夫を射られたメス鴨が、救いを求めてこの寺にやってきたのだ。

これは、なんと哀れなこと─────。

 

そう悟った禅誉上人は「仏果を授けて進ぜよう」といって、ただちに読経を始めました。

しばらく、じっと目を閉じてお経を聞いていたメス鴨でしたが、禅誉上人のお経も佳境に差し掛かったころ、しっかとくわえていた首をそこに置いたまま、どこかへ飛び去ってしまったのです。

 

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禅誉上人がこの首を埋めて菩提を弔っているところ、弓を手にしていた浪人が獲物を求めてこの寺にやって来ました。

禅誉上人は浪人を呼び止め、ことの一部始終を語ると、この浪人は自分の過ちを深く恥じ、心を入れかえて菩提心を起します。

 

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浪人は、その手に握っていた弓の弦を外し、矢まで折ってしまいました。

そして、もう二度と殺生をしないことを誓うと、禅誉上人の弟子にして欲しいと嘆願したのです。

 

こうして仏道に身を投じた浪人は上弓坊という名を頂き、それからのちの生涯を修行ざんまいに暮らし、この鴨の菩提を弔い続けたということです。

 

それが由来となり、このあたりの山を矢切の台・または矢切の峯と呼ぶようになった、という事です。

 

せっかく参詣したので、御首題(御朱印)を拝受しました。

日蓮宗独特の、流れるような「ひげ題目」が美しいです。

 

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いま、この矢切の峯とされるところには幽寂な墓地が広がり、その片隅には墓石が倒れ、すでに詣でるものもなく、ただひたすらに土に還る時を待ち続けているかのようで、よりいっそうの哀れさを感じます。

 

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この静かで穏やかな峯の奥には木々がうっそうと生い茂り、本堂をのぞむ遥か彼方には発展も著しい久里浜の港が望まれて、かつてここで弓を引いた浪人の姿と、鴨を前に慈悲を施す禅誉上人の遺徳がしのばれる思いです。

 

 

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