横須賀市長井の海岸沿いを原付で走っていると、近くには大海原が広がる荒崎公園に出るのだが、その近くには勧明寺という浄土真宗の寺があり、その門前の通りに一本の縄が掛けられているのを目にした。
この縄は「荒井の道切り」というもので、電信柱から電信柱へと荒縄が渡され、わらで作った刀、蛇、わらじ、木製のサイコロが下げられているのが見てとれるのである。
この道切りは、毎年5月15日と11月15日の住吉神社の祭りが近づくころ、村の人々によってしめ縄が作られてはムラ境の三か所に張られる。
この習俗は疫病などがムラに入ってくることを防ぐためのもので、このような習俗は横浜市内でも見られたものであり、日本全国に見られるものである。
このしめ縄は、荒井町内会館前の広場に各家から1人ずつ男性が朝7時に集合して行われる。しめ縄は1時間~2時間で作り上げられるが、この作業に参加しなかった者は住吉神社の草刈りや掃除を行い、御神楽の準備するのが習わしであるという。
材料のワラは、地元の農家から持ち寄られるが、ワラで作った刀剣、ヘビ、鼻緒のない片方だけの草履、木製のサイコロを吊り下げる。サイコロとヘビは博徒と大蛇が村に入ってこないようにとの事であるが、草履は風土記には「魔除け」とのみ書かれており、どのような由来があるのだろうか興味が尽きないところである。
この祭りが終われば、この注連縄は海に流して供養されて村の息災を皆で願うのである。
平成が終わり令和となった今、このような地域信仰が次第に失われていく中で、横須賀の長井では今なおこうして人々の一途な信仰が守られているのである。