こちらは、少々前の宮崎アニメ。
「風立ちぬ」です。
日本軍を代表した戦闘機である「ゼロ戦」を設計開発した堀越二郎をモデルにしつつも、のちの堀辰雄が描いた小説の物語からもヒントを得た内容で、そのため史実からはだいぶかけ離れています。
「史実と違うじゃないか」なんて批判もあったようですが、手塚治虫先生に言わせれば「君たちはマンガと現実の区別もつかないのかね」ですよね。あくまでも「史実や小説をもとにしたフィクションのアニメ」ですから。
この映画の詳しい内容は、主人公が大空に大志を抱く少年時代であったころ、イギリスの貴族(伯爵)にして飛行機の設計家だったジョヴァンニ・バッチスタ・カプロニ伯爵が夢に出てきたことから、本格的に飛行機設計家への道を歩み始めた青年のお話です。
彼はのちに航空機会社へ就職、設計技師として紆余曲折を経ながらゼロ戦への開発を手掛け、さらにさる名家のお嬢様と結婚しますが、このお嬢様が結核を患っていて結局は悲しい結末をたどります。
この映画で気になったのは、まず幼少時代の主人公と妹との会話。
すべて敬語なんですね。
兄「カプローニという方です。伯爵だそうです!!」
妹「ここ、血が出ています! 赤チンを塗って差し上げます!!」
といった具合に。
もちろん、母親との会話でも敬語で押し通しています。
戦前はどの家庭でもそうであったかというと、そうではなく家庭の教育環境もあるのでしょう。
何しろ、小学生なのに先生から英語の本を借りてきて「英語ですよ?」「兄から辞書を借ります」なんてやりとりをしてるくらいですから、相当の教育環境の家だったのでしょう。
そのせいか、成人してからの主人公はドイツ語もペラペラです。
同じく戦前が舞台である「のらくろ」では、のらくろがブル連隊長の息子さんの遊び相手をする描写があります。
連隊長といえば大佐。いっぱしの将校ですからおよそ貧しく無学、権力にも縁のない平民とかではないのですが、そのブル連隊長の息子でさえ大人(成犬)であるのらくろにたいして「こんなのつまんないや」などといった言葉づかいで接します。
ですから、このアニメを見た方は「戦前の子供はなんて礼儀正しいんだ!」とブログで書いている方もいらっしゃいますが、この映画の主人公はむしろ特別な存在であったと思います。
とはいえ、今現代の日本人を見ていると上下関係も礼儀も無きに等しく、一昔前の電車では皆が新聞や本を開いて活字に触れていたのに、今ではスマホのガチャゲームや動画アプリばかり開いている姿を見ると、明らかに日本人の文化は「劣化」しているなぁ、と思わされます。
そういうみうけんだって電車の車内ではひたすらブログを書いているわけですが。
もうひとつ気になるのは、謎の外国人カストルプさんの正体。
後半、主人公が航空機の設計家としてしだいに力を発揮するようになると、ちょくちょく主人公の周りに現れては消え、現れては消えてを繰り返します。
この外国人は何者なのか。
いちおうドイツ人であるかのような描写を見せますが、みうけんの見解では、当時日本に潜入して数々のスパイ活動を行っていたソ連のスパイ、リヒャルト・ゾルゲだったのではないかと・・・
そうそう、ドイツの作家トーマス・マンの作品に「魔の山」という小説があります。
「魔の山」の主人公がハンス・カストルプという青年なんですが、結核に侵されてしまった従兄弟を訪ねて、アルプスのふもとにある療養所を訪れる、というお話で、これは映画の中の設定にも似通っています。
「ここは、魔の山。嫌な事、みんな忘れる」と不可思議な語り口で主人公に語りかけます。
やがてカストルプは日本の特別高等警察に追われて、その後の消息は分かりませんが史実のゾルゲは実際に日本の警察により捕らえられ、最後に「共産主義万歳」の言葉を残して処刑されます。
実はカストルプはもともと、日本軍の戦闘機を作る技師であった主人公そのものにスパイ活動をしていたのではないか。
自分が特別高等警察に追われているのを知ってか知らずか主人公にちょくちょく接近する。
そのために主人公までスパイと思われたか、主人公までが特別高等警察に追われる事になります。
これは偶然であったか。
それとも、主人公をスパイに仕立てて特別高等警察に捕らえさせ、戦闘機の開発を止める計画だったのか。
答えは出ていません。
それにしても、この映画に出てくる特別高等警察はおかしいですね。
特高が白ずくめはおかしいでしょう。
いちおう当時の日本の秘密警察のようなものだったのです。こんな目立つ格好はしていなかったようです。
現代日本の秘密警察である公安警察だって、そこいらへんのオジサンと同じ格好して市民に溶け込み、色々な対象を監視したり尾行したりしています。
なんだか、よく時代劇に出てくる、昼間っから黒装束を着て余計に目立っている間抜けな忍者を思い出してしまいました。
おっと、これはマンガなのだ。
それにしても、このアニメには今では考えられないような、当時の日本の姿がよく表されていると思います。
関東大震災からたちまち復興した市井の力強さ。
その反面、飛行機の部品ひとつが、日本中の子供に天丼を食べさせてもお釣りがくるという現実。
多くの貧しく無名な国民を犠牲にし、踏み台にして最新鋭の飛行機を開発していったという現実。
どこにでもタバコが出てくるどころか、結核患者を治療もさせずに家に留め置き、かつその脇でタバコをふかす主人公の姿。
このアニメはタバコが出てくることも批判されていますが、当時は現実そうだったのだから仕方ない。
何という映画だったか、戦後の白黒映画ですが、産まれたばかりの赤ちゃんを親戚が見にきて、その赤ちゃんと母親の周りをグルリと囲むように座ってタバコを吸って部屋がモクモク・・・そんな時代です。
主人公の岳父が、「男は仕事をしてこそのものだ」と急き立て、病床の妻を家に置いて仕事に戻させたのも「なんて冷たい夫だ、仕事人間だ」と批判的な意見が多いですが、当時の日本人はそのように全てを犠牲にしたからこそ、文明開化からわずかな時間で日露戦争に勝ち、欧米列強の仲間入りを果たし、「おそるべき後進性だ」といいながら欧米列強と互角に戦争をするまでの強国に成り得たのです。
結局戦争には負けますが、それまでに培われた技術力や姿勢は決して無駄ではなく、現代日本の繁栄の礎ともなったのです。
かといって、主人公は大好きな飛行機作りにばかり熱中して病床の奥さんを気遣う場面は少なかった。これもまた事実。
しかし、この主人公が飛行機設計を成し遂げるアニメなので、あまりキスシーンに時間を避けなかっただけ、本当は影では主人公はもっと奥さんを愛していたのではないか。
みうけんは、そう思うことにしています。
そうじゃなきゃ、やりきれない。
まぁ、仕事人間だったりギャンブル中毒だったり酒に溺れたりで家庭を顧みない夫はいつの時代だっていますしね。
まだまだ書きたい事はありますが、この映画は本当に奥深い。
タバコや家庭放棄の件は別にしても、いまの日本人はこの映画を見るべきです。
そして先人の努力に見習い、今の自らと見比べ、現代日本の繁栄を作り上げた彼らの功績を忘れてはならないと思います。
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