フルオープンキッチンのカウンター席で、シェフが目の前で焼いてくださる新鮮な魚介やお肉たち。
材料のお披露目、シェフの立ち居振る舞い、食材が華麗に焼かれて盛り付けられていく、その一連の流れを眺めて楽しみ、味わって楽しむのが「鉄板焼」の世界です。
「鉄板焼」で検索すると都内のお店が多くヒットしますが、では我らが横浜には鉄板焼はないのか!?
否、横浜にも美味しい鉄板焼のお店はあるんです!
そのお店はJR・地下鉄の桜木町駅から徒歩3分、紅葉坂交差点の脇にある「鉄板焼 にし田」さんです。
この界隈は車やバイクでしょっちゅう通りますが、これは気がつきませんでした。
まさに、大人の隠れ家といったところでしょうか。
さっそく店内に入り、予約をしていた旨と名前を告げて着席です。
店内はいかにも和風モダンな作りで、すんごく落ち着きますねぇ。
鉄板を目の前に望むオープンカウンターが9席。
他に4席のボックス席もあるようで、デートはもちろん少人数での接待などにもオススメできるお店です。
さて、コースは3種類。
◆鳳仙花《ほうせんか》(10品:11000円)
→A5ランク黒毛和牛サーロインまたはフィレを堪能できるコース
◆竜胆《りんどう》(10品:14000円)
→伊勢海老やA5ランク黒毛和牛サーロインまたはフィレを堪能できるコース
◆鈴蘭《すずらん》(11品:17000円)
→活鮑・伊勢海老・A5ランク黒毛和牛サーロインまたはフィレを堪能できるコース
となり、それぞれ別料金でお肉のランクアップも可能とのこと。
今回は松竹梅の竹を選ぶつもりで、真ん中の「竜胆コース」でお願いしました!
食前には白ブドウの香りを堪能できるスパークリング。
スッキリとした甘味と酸味、お口にはじける炭酸で爽やかな一杯。
▼A5ランク黒毛和牛の炙り寿司
お塩と塩昆布で味付けがしてあり、お好みでワサビも添えていただきます。
見た目だけで分かる軟らかさは、さすが! 天下一品の甘さです。
これはA5ランク常陸牛のカイノミという希少部位で、背中のバラ肉の中でもフィレ肉に近い部分。
軟らかな肉質のわりには赤身の旨味が強く、まさに一級の上品な味わいです。
こうして一品目から期待値を上げてくださる、秀逸な前菜。
ワサビの香りがすごくよくて、旨味と塩味を兼ね備えた塩昆布も良いアクセントです。
▼季節の野菜の一品
千葉県産マッシュルームのムースで、全粒粉のクラッカーに乗せていただきます。
見た目が美しいのみならず、スプーンを通じて伝わってくるフッワフワ感が素晴らしいです。
マッシュルームをムースでいただく、というのも意外性がありますよね。
クラッカーとの相性もよく、トロトロなムースを舌の上で転がすと、生コショウがお口の中でプチッと弾けるたびに広がる香りが全体をよく引き締めてくれます。
さて、このお店を切り盛りされる西田シェフは、永らく横浜で修行されてきた、この道30年の大ベテラン。
とある有名ホテルで鉄板焼の料理長を務め上げるなど、その経歴もボリューム感あります。
食材に対する研究を常に怠らず、そのために知識も豊富なので、お話がとても楽しかったです。
楽しくお話ししながらも気遣いもしっかりで、終始快適そのものなお時間が過ごせました。
この鉄板焼というものは、まさに目の前で繰り広げられる一大エンターテインメント。
見て、聞いて、香りを楽しみ、そして口内全体で味わうシアワセな瞬間、また瞬間。
そんなステキな空間を、最高の食材で盛り上げてくださる、素晴らしいシェフなのです。
▼鉄板で仕上げる温前菜
仙台牛のサーロインのすき焼き仕立て&鹿児島県産の地鶏の卵というラインナップ。
野菜は、春菊・大黒本しめじ・長ネギという豪華さです。
鉄板焼ですき焼きというのも、エーッと驚く意外性がありますよね。
そして、この見た目だけでも嬉しくなってテンションが上がってしまうすき焼きです。
さすがは仙台牛。さすがはサーロイン。
ロイン肉があまりに美味しかったので、貴族称号「サー」をつけてしまったという・・・
英語圏において、「サー」は敬意の証。
本当に美味しいものに対して敬意を込めるのは、東洋も西洋も一緒ですよね。
敬意を込めて、東洋式に「いただきます」。
お肉は、もう論ずる術がないほど甘く、軟らかく。
焼き加減も絶妙で、お口の中がトロットロになる美味しさです。
途中から玉子を入れてもよいのですが、この玉子がまた秀逸です。
ただの玉子と侮るなかれ、大変に甘くてコクのある玉子なので、是非。
お野菜も美味しくて、春菊は穂先の部分だけを使うので柔らかです。
特筆すべきは、片面だけに細かく隠し包丁を入れ、牛脂で焼いたという白ネギ。
シャッキシャキのトロットロで、ガッツのある牛脂の香りもしっかりついていて極上の美味しさです。
まさに、「すき焼きの概念を変えるすき焼き」とも言える逸品。
▼黒毛和牛のお造り
仙台牛の赤身肉を一晩昆布で締めて、じっくりと低温調理された逸品。
その下には淡路島産玉ねぎのマリネが添えてあります。
まず、お肉がものすごく良い香りで、サッパリとした脂がいいですよね。
この「鉄板焼 にし田」さんは、こうしてお肉が続いてもしつこくない工夫がなされているのが嬉しいです。
まさに、中年に優しい鉄板焼ですよね。
個人的には、玉ねぎを巻いて食べるのがオススメです。
この玉ねぎ、軟らかくて瑞々しいのみならず辛くないんです! むしろ、非常に甘い。
これは淡路島産の玉ねぎの特性で、他の玉ねぎにはない唯一無二の味わいだとか。
この玉ねぎを一回食べると、他の玉ねぎが食べられなくなるとシェフが仰っていたのもうなずけます。
▼伊勢海老のソテー
お肉だけではなく、美味しい海鮮も楽しめるのが鉄板焼の魅力。
こちらでは、大きな伊勢海老の身と、オリジナル海老味噌グラタンがやってきました。
まずもって、盛り付けの美しさに感動です。
全体を引き立てて、さらに美しく見せる黒いお皿ともよく調和していますよね。
オレンジ色のソースは、海老の殻を煮詰めて旨味を出したアメリケーヌソース。
下にはカリッと焼かれたマッシュポテトも添えられています。
海老の身はプリップリで甘く、噛むごとに海老の旨味があふれます。
表面を香ばしく焼かれていて、旨味も凝縮!
この一口一口に伊勢海老の美味しさが全て詰まっているような気がしますねぇ。
グラタンは、海老味噌とホワイトソースで仕上げてあります。
表面はカリッと、中はトロトロな仕上がり。
まずはそのままで食べてみると、カリッとした食感の中からトロトロがあふれます。
濃いめのチーズの香りと海老味噌のコッテリ感が一気にお口に広がりました!
もちろん、バゲットにもよく合いますねぇ。
海老味噌がたくさん入っているのも嬉しいし、量もしっかりあるのでたっぷりいただけます。
味付けも、濃すぎず薄すぎずのちょうど良いライン。
パンもむっちりとして香り高く、この美味しいグラタンによく合う秀逸なバゲットです。
ここで、お肉に備えて赤ワインを注文です。
妻ちゃんはライトボディ、みうけんは酒豪を反省してお酒をやめたので、ノンアルコールワインで。
お酒を飲まない方のために、ノンアルコールのワインもスパークリング・白・赤と揃えてあるのが嬉しいところです。
▼お口直し
和牛で作るお吸い物、ということで。
生姜とユズをこれでもか、と効かせて塩だけで味付けをしたそうです。
お吸い物の出汁と生姜が、真冬の身体に沁み渡る・・・。
シャッキシャキの白髪ネギも良きアクセントになっています。
中に入っているお肉は、フィレの隣のチェーンという部位。
焼いても美味しくいただけるところをじっくり煮込んであるので、軟かくとろけます。
なにしろ、塩だけというのがいいですよね。
やたらに味を濃くしてごまかすのではなく、素材の味を限界まで引き立てようとする、その心遣いに感服いたしました。
▼A5ランク黒毛和牛サーロイン100gまたはフィレ80g
2000円追加で近江牛シャトーブリアンになるのですか・・・(予約時注文)
これは行くっきゃないでしょう。という事でシャトーブリアンです。
嗚呼、薔薇の如き美しき肉よ。
ミス・シャトーブリアァァン!!
お肉をお披露目してくださった後、シャッシャッと焼いてくださいます。
この西田シェフ、とても物腰やわらかくてお話する時は終始ニコヤカなのですが、さすがに鉄板に向き合う時は真剣そのもの。
同時に、焼き野菜も一緒に焼き上げながら供されます。
正直、シャトーブリアンは美味しいのです。しかし、お肉ばかりだと持て余してしまう四十路の後半にとって、こうしてお野菜を挟みながら頂けるのは、正直嬉しいですねぇ。
薬味は、まずは九州の甘い醤油をゼラチンで固めた泡醤油。
さらに本ワサビと、イギリス産の甘い海塩が添えられて登場です。
塩は英国王室御用達のマルドンシーソルト! ・・・かと思いきや、マルドンよりもやわらかい味わいで、塩なのに甘味があります。
それにしても、なんという美しいミディアムレア。
まずは、シンプルに塩だけでいただきました。
この食べ方がいつもお気に入りで、やはり美味しいお肉は塩かワサビだなぁと思います。
妻ちゃんのイチオシの食べ方は、泡醤油+ワサビ+フライドガーリック。
お肉のジュワジュワとガーリックのサックサクの対比がすごく良くて、これは感動ものの美味しさです。
お肉はものすごく甘いのですが、その甘さと香りをワサビがキュキュッと締めてくれます。
そこに、ガーリックの力強い食感と香りが良いアクセントになりますねぇ。
▼季節の野菜のグリル
焼き野菜の田楽味噌添えで、鉄板焼屋さんで「田楽味噌」という単語を聞くとは夢にも思いませんでした。
甘いお肉に対して、塩気のある田楽味噌というのがまた嬉しいですよね。
大分県産の大長茄子は、フワッフワでトロトロな食感が特徴。
他に茨城県産べにはるか・ズッキーニ・紅芯大根というラインナップ。
野菜が乾かないように、丁寧に水を足しながら焼いていたので水分量もちょうど良いです。
肉だけだと飽きるけれど、甘くて・ホクホクで・シャッキリで、といろいろな味と食感を楽しめるお野菜を挟みながら食べていると、みうけんのような中年にはとても優しく、飽きずにいただけます。
▼ガーリックライス
西田シェフにより、目の前で華麗に炒められていくガーリックライス。
立ち上るガーリックの香り、醤油がはぜていく香り・・・この香りだけで、ご飯が3杯食べられそうです。
もちろん、一切の妥協を許さない、完成されたガーリックライス。
表面はツヤツヤできらびやか。全面から立ち上る香りが食欲を刺激します。
少し硬めに炊き上げたご飯に、力強いガーリックの香りがガツンと効いていますねぇ。
表面に振られた青ネギの彩りと醤油の味付けもよく、いくらでもいただけてしまいます。
途中から、牛肉のしぐれ煮とワサビを入れてカツオダシで「ひつまぶし風」に。
まさに割烹で味わうような出汁で、研究の末にカツオ出汁を使うことに決め、塩は濃くならないギリギリのラインまでに調整されているんだそうです。
このお出汁がまた秀逸で、なるほど塩辛くないので、喉も乾きません。
ガーリックライスの旨味とワサビの風味が濃厚なカツオ出汁に染み込んで、ついつい飲み干してしまう「ひつまぶし風」の出汁茶漬けでした。
▼本日のデザート
こちらは西田シェフの奥様の、渾身の手作り抹茶ティラミスです。
ホッコリできる温かい焙じ茶つきで、食器も実に可愛いですよね。
ものすごく口溶けが良く、なめらかなのに濃厚。
抹茶の香りを最大限まで活かして、一流パティシエもうなるほどの出来栄えです。
前菜からデザートまで、本当に手抜かりなく。
まさに「渾身の技」が詰まった丁寧なお食事であったなぁ、と振り返る時間にぴったりのデザートでした。
◆◇◆後記◆◇◆
今回訪れたのは、桜木町駅から徒歩3分。
紅葉坂交差点の脇にある「鉄板焼 にし田」さんです。
横浜で永らく修行されたシェフと奥様が、満を持して開店されたお店。
関内や横浜駅の目立ちやすい所から離れた隠れ家的なお店ですが、それでもこの日はカウンターに多くのお客さんがいてお料理に舌鼓を打っておられました。
カウンターの写真がないのはそのためですが、2023年11月に開店されてから、早くも人気店になられたお店だというのもうなずけます。
鉄板焼の醍醐味は、目で見て、耳で聞いて、肌で雰囲気を感じて、そして舌で味わう。
全身の感覚をフル稼働させながら、オープンカウンターでシェフの技術を眺め、その成果を舌で味わうところにあります。
さらに、メニューを一瞥すると実に普通の鉄板焼かと思いきや、ところどころにすき焼きや田楽などを入れてくる意外性。
和食と洋食の中間たりえる鉄板焼ですが、まさに和のテイストをふんだんに活かしたお店でもあるなぁと思いました。
食材、技法はもちろんのこと、食器やインテリアにも並々ならぬこだわりをもって挑んだという「鉄板焼 にし田」さん。
まさに、入店から退店まで絶え間なく楽しめる芸術性の数々は、大切な人と過ごす大切なお時間にぴったりです。
これが、都内であったら絶対にこのお値段では頂けないでしょう。
横浜だから、価値がある。
まさに、横浜を愛するハマっ子の皆様にオススメしたい、そんな数少ない希少な鉄板焼屋さんだったのでした。
お試しを!
再訪希望値:★★★ 是非とも行きたい
【みうけんさんおススメの本もどうぞ】
※食べログでは表示されません
★☆食べログもごひいきに願います☆★
鉄板焼 にし田 (鉄板焼き / 桜木町駅、みなとみらい駅、馬車道駅)
夜総合点★★★★★ 5.0