みうけんのヨコハマ原付紀行

愛車はヤマハのシグナスX。原付またいで、見たり聞いたり食べ歩いたり。風にまかせてただひたすらに、ふるさと横浜とその近辺を巡ります。※現在アップしている「歴史と民話とツーリング」の記事は緊急事態宣言発令前に取材したものです。

愛車はヤマハのシグナスX。 原付またいで、見たり聞いたり食べ歩いたり。
風にまかせてただひたすらに、ふるさと横浜とその近辺を巡ります。
※いままではカタい文章の書き方でしたが、徐々に改めていきます。

結核の夫を完治させた 稲荷がくれたアリの卵(海老名市)

海老名市の農業高校のあるあたりを中新田といいます。

今でも田んぼが広がり、時おり牛の声が聞こえてくるようなのどかなところです。

 

実はみうけんはここの農業高校の出身ですが、その時に聞いたお話を思い出して、中新田にある「川寿稲荷」を尋ねました。

ここは、むかしはうっそうとした森が生い茂って「稲荷森」と呼ばれたところです。

 

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むかし、このあたりの村外れの一軒家に労咳(今でいう結核)を患い、長く床に伏しているとても貧しい百姓がいました。

 

この百姓の妻は咳で苦しむ夫をなんとか助けようと、毎晩亥の刻(午後十時)になれば稲荷森の稲荷の祠にお参りしていたといいます。

 

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そんなある月夜の晩、妻が一心にぬかずいて稲荷の祠に祈っていると、貴人の装束である束帯の姿の人が煙とともに現れ、三宝に載せた小さなおむすびを差し出してきたのです。

 

公卿冬束帯1枚目

(束帯の一例。「日本服飾史」より)


妻があっけにとられていると、その貴人は「これを食べされば、病はたちまちのうちに回復する。使いの眷族に毎日届けさせよう。ゆめゆめ疑うなかれ────」というが早いか、たちまち煙のなかに姿を消してしまったのです。

 

妻は、それからも毎日欠かさず、どんな悪天候の日でもお参りを欠かせませんでした。

妻が祠に行くと、決まって白髪頭の老婆が座っていて、無言で妻におむすびを渡しては消えてしまうのです。

 

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おむすびといっても小さく、一口で食べ切ってしまうようなものでしたが、妻は大切に持ち帰って毎日夫に食べさせたところ、夫の体はみるみるうちに回復したのです。

 

安心した妻は久しぶりに現在の相模原市、当麻の里にある実家に帰りましたが、思わず気がゆるんで長居をしてしまい、里を出たときはすっかり日も暮れて激しい雨となっていました。

 

妻は走るようにして必死に稲荷明神へと向かいますが、大雨の中では思うようには走る事もかなわず、鳩川を渡るのにも難儀して、すっかり夜更けになってしまいました。

 

妻は亥の刻を大きく過ぎて稲荷の祠に来ましたが、そこにはすでに老婆はなく、仕方なく妻が家に帰ると、なんと戸の前にずぶ濡れになった老婆が立っていたのです。

 

すぐに竈に火を入れて、服を乾かすからと老婆を家に招きますが老婆は家には入らず、まるで動物のように体をブルブルと震わせて水を飛ばすと、おむすびを置いてそのまま姿を消してしまったのです。

 

妻は雨も気にせずに姿を追いましたが、到底追いつくものでもありません。

諦めて家に戻ると、そこには見まがう事なきキツネの足跡がたくさんついていたのです。

 

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その日には、すっかり夫は元気になりました。

しかし、最後に老婆が置いていったおむすびからは蟻がぞろぞろと出てきました。

おむすびだと思ったのは、なんと蟻の卵を固めたものだったのです。

 

それから、いくらお稲荷様に詣でても、貴人にも老婆にも逢う事はできませんでした。

その反面、夫の病気はすっかりよくなって以前よりも体力をつけて良く働いたので、村の中でも金持ちとなった夫婦はいつまでも幸せに暮らしたそうです。

 

また、この夫婦は、いくら金持ちになっても稲荷森の稲荷様の祠への信心を決して忘れず、二人そろって欠かさずお参りに通ったという事です。

 

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いま、この川寿稲荷の祠がある辺りはすっかり開発されて普通の住宅街へと変わってしまいました。

少なくとも30年前は、ここまで開発されておらず草ぼうぼうの所がたくさん残っていたように思います。

 

稲荷の森はすっかり切り開かれて面影はなくなってしまいましたが、この川寿稲荷の祠は今でも大切にされているようです。

 

今となっては、この伝説を語り継ぐ人もだんだん少なくなってしまったようではありますが、昔も今も変わらぬお稲荷様の有難みは変わることなく、令和の時代となった今も中新田に暮らす人々を見守っているのです。

 

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