相鉄線の南万騎が原駅から歩いて5分ほどのところに、大池公園という広い公園がある。この公園はこども自然公園ともよばれ、その入り口あたりにある大池という溜め池は昔は農業用水で、江戸時代に本宿の六兵衛、清兵衛というものが堀った池であると伝えられている。
このあたり一帯を大池というが、これは池がそのまま地名となったもので、池のほとり(昔は中の島であったらしい)には祠があり、今でも弁財天が祭られているという。
この弁財天は大蛇の化身で、むかしむかし、ある猟師が池にきて鴨を撃ったつもりが、弾は大蛇に当たってしまった。それから猟師は病を患うようになり、家族にも不幸が続くなどしたので、村人は祟りをおそれて池の中の島に祠を建てて大蛇の霊を慰めたのだという。
また、この大池には釣り好きの爺様とキツネの話が残されている。
むかし、この近くに住む釣り好きで有名な爺様がいた。
爺様は二言目には、米や野菜を育てても口に入るまでには何か月もかかるが、釣りをすればその日のうちにうまい魚が食える、といっては毎日のように大池に行ってフナやナマズ、時にはウナギなどを釣ってくるのであった。
ある春の日、雨も上がったので野良でも行くかと婆様は言うが、爺様はこれぞ釣り日和とばかりに釣り竿をかついで出かけていくのであった。
さて爺様が池に向かって里の道を歩いていくと、山を越えたところでキツネが大の字になって寝ているではないか。
そのキツネがあまりにも気持ちよさそうに寝ているので、いたずら心を出した爺様はソロリソロリと近づいては、キツネの尻を思いきり釣り竿で叩いたのである。
びっくり仰天したキツネは飛び起きると、迷惑そうに爺様をジロリと睨みつけて逃げようとするあまり、あやまって大池にはまって泥だらけになってしまった。
爺様はその様を見て大笑いした後、大池に釣り糸を垂らして魚が来るを待ったが、魚は一向にかかる気配はなかった。
今まで、こんなに釣れなかったことはないんだがと考えているうちに、気が付けば周囲は暗くなり、夜空には星が瞬いているではないか。
おかしいものだ、まだ昼の握り飯も食べていないのに。
しかし夜とあっては仕方なく、家に帰ることにしたのであるが、どうも石につまずき、草に足を取られて思うように歩けない。そんな時に、すぐ向かいに一軒の屋敷を認めたので、ここに一晩の宿を借りることにしたのである。
こんな所に屋敷などなかったはずだが、爺様は疑うことも忘れて屋敷の門を叩くと、中から美しい女が出てきて爺様を手厚くもてなした。
女が風呂をすすめるので言われるままに風呂場へ行こうと扉をあけて中に入ると、バッシャーン!!と冷たい水の中へ飛び込んでしまったのである。
泥臭い水の中でしばしもがき、顔を上げると、そこは昼間の大池であった。
大池に落ちて呆然とする爺様を見て、一匹のキツネが大喜びして小躍りしていたということである。
その日から爺様は、大好きな釣りに行くのをすっかりやめてしまい、婆様と一緒に畑仕事に精を出すようになってからは、ずいぶんと長生きしたそうである。
いま、この公園のあたりは住宅街としてすっかり開発されてしまい、昔の名残を偲ぶよすがもないが、今でなお大池には多くの人が釣り糸を垂らし、昔も今も変わらぬ風景を醸し出しているのである。