横須賀市の西岸、長井の長徳寺の裏手には「ぽっくり地蔵」という悲しい謂れのあるお地蔵様が祀られており、その悲しい言い伝えは前回にも紹介したとおりである。
そのぽっくり地蔵のあたりはかつて火葬場があった場所ともされて昼なお淋しいところで、周囲は谷戸の間に畑が広がるばかりである。
その中でも漆山へ至る農道を入ったところの脇に不思議な形の自然石があり、これを地元の人たちはオコリ石と呼んでいる。
このオコリ石はかつて正月飾りが奉納され、またこの石に関する昔話も残っているというから、かつてこのオコリ石は「古くはこの石は神の宿る石神ではなかったか」と横須賀こども風土記には語られているのである。
その不思議な言い伝えというのも、この石はその形ゆえか、風が強い日には不気味な声をあげて唸りだしたという。
そのために怒っているようにもみえ、オコリ石という名で呼ばれるようになったが、科学の発達した現代では誰もが不思議に思うことはないことも、かつてはそれが不気味で、この石の脇を歩くときは急ぎ足で通り過ぎたのだという事である。
いま、巨木の影に隠れるようにしてひっそりと残されたオコリ石を撫でてみると、かつては神様としても崇められたであろうオコリ石がすっかりと忘れ去られて草木の中に埋もれて行こうとしていくことへの怒りと嘆きが聞こえるようで、このような自然石にも民話ができてしまうことの面白さをしみじみと感じるのである。