神奈川県は茅ヶ崎市、甘沼というところに曹洞宗の古刹である吉祥山玉林寺という静かなお寺がある。
普段は訪れる人もまばらな小さなお寺だが、その創建は古く、関ヶ原の合戦の頃と伝えられている。
玉林寺の境内には山門とブロンズの新しい仁王像、本堂に墓地と庫裡いった程度のものしかなく、これといって見所もない小さなお寺ではあるが、門前には小さな地蔵堂があるのが見て取れるのである。
地蔵堂の中には一体の長身のお地蔵様と数多くの人形が奉納され、活けられた花も真新しく、今なお人々の篤い信仰を受けている事が、容易に見て取れるのである。
こちらに奉納されている人形はどれも最近のものであり、何らかの歴史を秘めているわけでもなく、中にはいかにも大量生産品の、さして高価でもなさそうな人形までが奉納されており、それらを足元に従えた長身のお地蔵様の表情たるや殊の外おだやかで優しく、ほのぼのとしており、主から手放されたかわいそうな人形を慰め、まるで面倒を見ているのだと言わんばかりである。
いま、この小さな地蔵堂に静かにたたずむ慈悲深き地蔵尊と人形たちの姿を見つめていると、何か物悲しい人形たちの声が聞こえてくるようである。
大切に可愛がっていた人形が、たとえ必要なくなっても人形に宿るといわれる魂の事を思い、捨てるに忍びず地蔵に託したのであろうか。
それとも玉林寺の墓地に眠る、年幼くして短い人生を終えた水子達や子供達に届けてくれよと、亡者をあの世へと案内すると信仰されてきた地蔵尊に人形を託したのか。
ビニール製のどこにでもありそうな、ありふれた人形の一つ一つにも、持ち主の熱い思いが込められ、必要なくなってからもただ捨てるのではなく、見るも穏やかな地蔵尊に託されているだろうという事が、今なお人々に活きづくかすかな信仰心をあらわすようで、感慨もひとしおである。