みうけんのヨコハマ原付紀行

愛車はヤマハのシグナスX。原付またいで、見たり聞いたり食べ歩いたり。風にまかせてただひたすらに、ふるさと横浜とその近辺を巡ります。※現在アップしている「歴史と民話とツーリング」の記事は緊急事態宣言発令前に取材したものです。

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飢饉の霊をなぐさめた三界萬霊塔と 見事な舟の波乗り不動(綾瀬市)

綾瀬市の吉岡のあたりを原付で流していた、ある秋の日のことです。

秋風が吹く爽やかな吉岡の里の片隅に、小さな児童公園を見つけ、その奥に残されていたお堂が気になったので、子供が遊んでいないのを確認してちょっと立ち寄ってみる事にしました。

 

(子供が遊んでいるところでカメラを持ち歩くと、それだけで不審人物扱いされる世の中です。こまったものです)

 

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この公園は根恩馬(ねおま)公園といって、根恩馬とはずいぶん古くからある地名のようです。

こはちょうど目久尻川河岸段丘に位置するところです。

 

もともと恩馬郷と呼ばれていたものが、河岸段丘の尾根の付け根に位置していたことから、このあたりを特に根恩馬という地名で呼んだそうです。

 

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さて、この根恩馬公園の奥に浪乗不動尊の不動堂が残されているのを見る事ができます。

普段は訪れる人もまばらな無人の不動堂ですが、その周囲は綺麗に掃き清められて手入れもよく、どこかしら凛とした雰囲気を感じさせます。

 

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中には三体の石仏があり、左から地蔵菩薩さま、不動明王さま、また地蔵菩薩さまと並んでいますが、この不動堂のご本尊さまとして立派な岩船に乗った「浪乗不動尊」があります。

 

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この波乗不動尊は、火除けの守護仏として安政6年(1859年)に建立されました。

このように不動明王さまが船にお乗りになった造像はたまに見られますが、このお不動様は特に里人からは「浪乗不動」という名で親しまれています。

 

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大東亜戦争の頃までは、日照りが続くと浪乗不動を目久尻川に入れて雨乞いをする習わしがありました。

 

今なお台座には「防火 不動尊 天下泰平 講中安全 安政六末年八月吉祥日 下吉岡村」と陰刻されているのを読み取る事ができます。

 

また、右端のお地蔵様は三界萬霊塔と刻まれた台座の上にお立ちになっておられます。


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今でもお寺などに行くと三界萬霊塔をよく見かけますが、この三界萬霊塔とは一体なんでしょうか。

 

本来、仏教界において三界とは、我々人間が生きていくこの世界のことであり、欲界・色界・無色界といった3種類の世界からなっています。

これらに住むすべての精霊を供養するのが三界萬霊塔でした。

 

しかし、民間信仰のなかで、過去・現在・未来といった三つの世界と、全ての霊を指すという考えが生まれ、いまではこちらがわかりやすい事もあり一般に普及している考えのようです。

 

三界萬霊塔に手を合わせるということは、有縁無縁、過去未来、人間非人間に関わらず全ての時代の全ての例に手を合わせるということになり、大変に尊い事です。

 

この三界萬霊塔は、天明5年の陰刻が刻まれていますが、ちょうど天明の大飢饉によって全国に大きな被害が出たころで、「当山現住」の陰刻もみられますから、ここでお勤めをされていたご住職の慈悲が今にも残されているのでしょう。

  
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また、その脇には由来ははっきりしないものの磨滅したお地蔵さまが残されています。

このお地蔵さまも、いろいろな願いを込められて建立されたものなのでしょう。


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このほかにも、この境内には木食僧の碑や豊川稲荷、「陸軍歩兵伍長 栗原市助墓」なども残されています。

今は訪れる人も多くはなく、まさに草の中に埋もれようとしています。


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いろいろと資料や古地図を見てみましたが、この根恩馬のことについて詳しく触れた資料に出会うことはできませんでした。

しかし、ここにかつて庵というか寺のようなものがあったのかもしれません。


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いま、河岸段丘の果てに広がる農村と草原という、昔と変わることのない光景をにわかに残す根恩馬の地に立ってはるか遠くを眺めているとき、ここに生きてきた人たちが熱心に不動明王さまや地蔵菩薩さまに手を合わせたいにしへの思い出がにわかに思い出されるようで、百年の月日も一日の思いと感じるのです。

 

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