小田原市の東の端、眼前に相模灘と小田原の街を眺める沼代という所の高台に登ってみました。
このあたりは原付であれば難なく坂を上ることができ、一面に広がる広い空の下に広がる風光明媚な景色はなかなか見ごたえのあるところです。
ここには沼代地蔵堂という小さな地蔵堂があり、今なお地域の方からの信仰を集めて大切にされているのは以前にも紹介した通りです。
この地蔵堂も扉を開けて香華を手向ける事が出来ればよいのですが、このご時世とあっては仕方のないことと、手を合わせて御真言だけを唱えさせていただきました。
この沼代地蔵堂の脇には、ひときわ大きな木の下に小さな石碑が建てられています。
今となっては訪れる人もあまりなく、あまり研究もされていないのか歴史史料も皆無に等しいような状態でしたが、石碑の表面の文字からここにはかつて「千代之松」という松の大木があったということです。
この千代之松跡の碑には、
千代の松は我が沼代の中央に高く聳え万人の
目標となりつヽ常に愛賞されていたが千年の
齢も既に盡きたかあったら枯れてしまった
當地の人々之を惜み其の跡に後継の松を植え
碑を建て以て後昆に傳へよと云ふ
と、その由来が刻まれています。
恐らく、どこからも良く見えた立派な松の木で、文字通り地域の里人たちのランドマークだったのでしょう。
小高い沼代の丘の上、小さな地蔵堂の脇に見上げるような松の巨木がそびえたち、相模湾の潮風を受けながら東海道を行く人たちを見守っている───。
そんな、いにしへの情景が目に浮かぶかのようです。
今、時は流れ流れ、道の案内といえば道祖神を兼ねた路傍の道しるべや、塚や巨木の時代から、スマホや車載のカーナビへと取って代わられました。
この丘の下には綺麗で立派な道も整備され、今となってはわざわざこの道を通る人も少なくなってしまったようで、わずかに残された地蔵堂と、石塔の残決だけが往時の姿を今に伝えているかのようです。
いま、この千代之松跡に建って遠くの相模灘を見下ろすとき、時代は変わり道は変われども頭上を旋回するトンビの群れの姿は昔と何ら変わることなく、まだこの道が街道として栄えていたころを思い起こさせてくれます。
そして、この時の流れをずっと見守ってきた石仏や木々たちが話してくれる昔ばなしのささやきが、そっと耳元に聞こえてくるかのようで感慨もひとしおです。
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