相模原市上鶴間本町の、境川の流れのほとりに中和田というところがあり、その中心となっているのが曹洞宗寺院である中和山 泉龍寺です。
このお寺はもともと浄土宗の西光庵という庵でしたが、戦国時代から江戸時代にかけて曹洞宗に改められ、名も泉龍寺と改めたということです。
一時期は隆盛を極めて、延名山常念寺(谷口)、瑠璃山東光寺(谷口)、常楽寺(町田市鶴間)、南鶏山円法寺(横浜市上川井)などたくさんの末寺を持ちましたが、現在は常楽寺以外は廃寺となってしまったそうです。
それらの跡地が現在どのようになっているのかも気になるところです。
この泉龍寺の境内をゆっくりと歩いていると、その広大な境内には壮麗無比なる本堂や庫裏が立ち並び、見上げるまでに立派な三重塔は一見の価値があります。
これらを見るだけでも、いかにこのお寺が多くの檀家さんを抱え、また地域から崇敬され愛されているのかが分かるというものです。
泉龍寺の境内には緑も多く、この中を散策しているだけでも心が洗われるかのようですが、その片隅に緑の中に水をたたえる蓮池を見つけました。
仏教において蓮の花は象徴的ですが、このように立派な蓮池があるお寺というのはそうそうあるものではありません。
そして、その蓮池のほとりには美しい観音さまが腰を下ろし、お休みになられている姿を見ることができるのです。
この観音様は一葉観音と号されている観音さまです。
この一葉観音さまは、むかし中国での修行を終えた僧が帰国の途上で激しい暴風雨に遭い、命も危なくなったときに一心に観音さまを念じたところ、蓮の葉に乗った観音さまが現れたのが起源です。
その時、それまで激しく猛り狂っていた風波もたちまち収まってしまいました。
その時から今の時代に至るまで、民衆の順風満帆な旅を約束し、かつ交通の安全、さらには水難から身を守ってくださる霊験あらたかな観音さまであるという事で多くの信仰を受け続けているのです。
この泉龍寺の一葉観音さまは蓮の葉というよりも蓮の花びらか、笹舟のような葉に乗っておられます。
像の下には猛り狂ったような波のうねりが表現されていますが、波をものともせずに安寧の表情のままで片膝を立てておくつろぎになるそのさま、また左肩に衣をかけ右胸をはだけさせた偏袒右肩(へんだんうけん)の衣の流れるさまが実に美しく、いつまで見ていても飽きない見事な造像例だと思います。
その足元には、静かで波ひとつない水面と、その水面を彩る数多の蓮の花が咲いていました。
この蓮はどちらかと言えば睡蓮なのですが、この花もなかなか美しいもので、見ているこちらの心までも清らかになっていくようです。
いま、この一葉観音さまに向き合っていると、その慈悲深い優しい表情の中に、荒波を鎮めるという観音妙智の力をひしひしと感じ、あらためて観音さまの偉大さに平伏する気持ちで手を合わせたのは言うまでもありません。