本牧神社はかつて神仏習合の時代に日天、月天、火天、水天、風天、地天、梵天、毘沙門天、大日財天、閻魔天、帝釈天、羅刹天の仏説十二天を祀っていたことから本牧十二天社といって、いまの本牧マリンハイツの向かい、本牧十二天緑地のところに鎮座していたが、本牧十二天の地が米軍に接収されたために現在の位置に移転した。
それから現在に至るまで地元では篤い信仰を受け、本牧地域の総鎮守として親しまれ、神事「お馬流し」は神奈川県の指定民俗文化財に指定されている。
今でも訪れる人の絶えない賑やかな神社であるが、本殿のわきに熊野速玉社の小さな社があり、小さな絵馬が数多く奉納されているのを見ることができる。
熊野速玉社の祭神である速玉之男神は、古くより良縁を司る縁結びの神として信仰されてきた。
これは伊邪那岐命(イザナギ)が伊邪那美命(イザナミ)から別離しようとしたとき、振り払って千切れた衣の切れ端が神となった事に始まるとされ、悪しき因縁を絶ち、良き良縁に巡り合う縁結びの神として崇められているのである。
この社の脇に立つのは榎の木である。
榎はエノキと発音するところから「縁の木」ともされているが、特にここでは二本の木が絡み合って立っているのが不思議である。
良縁成就を深く祈りながら、この木の周りを右回りに回れば、さらに絡み合って良縁がより深いものとなるとされる。
また、左回りに回れば悪縁はほどけて、次に来たる良縁を迎えるべく準備がととのうのだという。
この小さな社には、それに似合うかのようにかけられた小さな絵馬がギッシリと奉納され、そのどれもが悪縁の円満な解消や、新しき良き出会いを願う内容ばかりで、昔も今も変わることのない良き伴侶との出会いを願う人々の願いを、静かに受け止めているのである。