横須賀市の芦名漁港を見下ろす風光明媚な海岸の崖のうえ、砂だまりの道を山にそって登って行ったところ、扁額すらない簡素な鳥居の奥に、朱に塗られた無人のお社が見えてきます。
普段は誰もいない小さな神社ですが、この神社こそが縁結びと子宝に御利益があるという芦名の淡島神社です。
木々がうっそうと茂る裏山を背後に控えた静かな境内には、猿田彦の碑が建ち、覆いかぶさるような古木の影には相模灘の果てに遠く長井の岬が望見できるところで、普段はひっそりとした漁村の小さなお社といった趣です。
毎年3月3日に縁日が開かれ、三浦半島の各地より「淡島行」という臨時バスまでが多く走って参拝客を集め、露天商までが出て大変な賑わいであったという事で、みうけんの蔵書である「三浦半島の史跡と伝説」にも、その時の写真が掲載されています。
このお祭りは今でも続いているようで、ぜひ行ってみたいのですが今年はコロナもあるので開催されるのかどうか・・・。
上記の「三浦半島の史跡と伝説」によれば、
淡島の神は天照大神の御妹で、住吉明神の妃神で、腰の病があったことから多くの女性を救うことを誓って神になったと伝えられている。
とあり、社殿の中には両脇に立派な男性器の御神体が奉納されており、これも子宝に恵まれるという俗信から生れたものでしょう。
また、暗い社殿の中に奉納された絵馬には、天狗の鼻を握りしめて笑う女の絵が描かれており、これも気になるところです。
なにぶん接写できないので、画質が粗いのが残念な所です。
3月3日の祭礼では、社前にて針供養が行われます。
これは、古くなった針や折れた針を、皿の上にのせた豆腐に差す行事です。
これは、針により男性の愛を留めるという俗信にも結び付き、この針につく糸は縁の絆のシンボルでもあり、その糸が繋がることによって良縁を生む、という俗信が信仰となったものだそうです。
この祭礼の日には、諸病除けや安産のお札が授与され、また参拝者は参道の途中で、ひしゃくの底を抜いたものを買い求めて奉納するならわしがあるそうです。
これは、底が抜けたひしゃくからよく水が出ていくように、出産時には軽く産める安産を祈願したものだそうです。
また、この淡島神社の参道には、帯解子安地蔵という地蔵堂もあります。
堂内に祀られている本尊の子安地蔵は、弘法大師が焚いた護摩の灰から作ったと伝えられています。
帯解とは、「腹帯が解け子を授かる」という意味を持ち、こちらも安産祈願に霊験あらたかとされています。
堂内にはかわいい子産石が奉納され、扁額には
女の身を わけて情を かけ帯の
むすぶちかひは さんのひもとく
という御詠歌が掲げられて、ここにも良縁と安産を求める女性たちのひたむきな願いが伝わってくるかのようです。
いま、この小さな地蔵堂の前にて手を合わせて香華を手向けるとき、その場に数多の女たちが詣でては、そっと手を合わせて、淡島さまに、お地蔵さまに願をかけていった姿がまざまざと眼にうかび、ここにも人々の素朴な生きざまを、おぼろげに思い出すのです。
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