箱根の小涌谷から芦ノ湖に続く国道1号線は、平日であれば通る車もさほど多くはなく、二子山の麓から眺める箱根の山々は初夏の彩りも美しく、まことツーリングには最適の時季である。
国道一号線は最近になって新しく造成された新道であるが、その脇に今も残る精進ヶ池の周囲には数多くの石仏が残されて、この池に沿った獣道がかつての旧道であったのであろう事を今に示しているかのようである。
今となっては訪れる人もまばらなこの精進池のほとりを降りていくと、山道の中ほどに見えてくるのが巨石の連なりであり、その中には大小あわせて25ほどの磨崖仏が穿たれているのを見ることができるのである。
これは箱根二十五菩薩と呼ばれて、木立の生い茂る下に突き出た巨岩のなかに、舟形に彫り込まれた中に本尊とみられる阿弥陀如来像を中心として流麗なる衣服の模様を再現させた二十数体の地蔵菩薩像が、手に手に宝珠や錫杖を持って立っているのである。
これは人間がまだ見ぬ死後の世界の恐怖にむかうとき、せめてあの世への安楽を願い、阿弥陀如来によって二十五菩薩とともに極楽浄土へと導かれてほしいという、切なる願いから彫り込まれたものであろう。
この辺りは、箱根越えの中でも難所続きであり、旅人の間では賽の河原という異名まで与えられて、近くに行き倒れの死人があれば向いの二子山や駒ヶ岳を、死出の山路にたとえて霊魂が集うと考えられ、精進池に線香をあげて供養したのだという。
今ではすっかり忘れ去られてしまったような、信心と念仏に生きた人々の生きざまを感じ取ることができるところなのである。
これらの像はどれも柔和な顔立ちで、切れ長な目はやさしく衆生の歩みを見守り、かすかに微笑みをたたえた口元は、これからの旅に安楽荒れと静かに語りかけてくれているようで、ここにも大慈大悲のこころを見せられているかのようである。