喧噪華やかな本厚木駅をはるかに離れ、国道412号線を愛川に向かって北上していくと、やがて荻野の里にたどり着く。
412号線から西側に入り、荻野川を渡ると曽根神社という村社があるが、そのさらに山奥に入っていくと通りから奥まった行き止まりの農道があり、そのさらに奥の、とうてい車では入れないであろう獣道の先に、木々に守られながらひっそりと佇む小さな神社を認めることが出来る。
この神社は「チンチロリンダイジンサン」と呼ばれる神社で、この近辺には「~サン」と呼ばれる小さな無格社が数多くあり、思いつくだけでも
「オオモリサン」(船子)
「オシャグジサン」(中荻野)
「オシャモジサン」(上依知)
「チンボカミサン」(上荻野)
などがあるが、この「チンチロリンダイジンサン」もその一つである。
この神社は、この近辺の通称「深堀」集落の講中11軒が祀る神社であり、普段は無人である。
もともと、神社の一形態として、比較的狭い範囲を守る集落の鎮守、田畑の鎮守、水源の鎮守が全国に無数に造られては盛んに信仰された。
明治時代に愚かな国策により強制的に一まとめにされたりした例もあるが、それでも今なおとして全国にはこのような「無格社」が数多く残され、細々と信仰されている。
こちらのチンチロリンダイジンサンは、鳥居は簡素な金属製で扁額すらないが、境内は良く手入れされ、おそらく毎日のように綺麗に掃除されているのであろうか。
祠の中に鎮座されているのは、男根をかたどった石棒である。
古くは毎年の10月20日、現在ではこの日の前後の日曜日が祭礼日であり、子供が授かるという霊験はあらたかで、ここにも子宝を願って性器に信仰する日本の郷土信仰を見る事ができるのである。
今はガッセー講とも呼ばれ、山の神、日枝、秋葉、道祖神を複数祭祀している。
ガッセー講というのは、一切合切の合切だという。
この境内の脇には、深い森林に入っていくだった一本の獣道があり、訪れる人はなかなかなく、ただ静寂と森の香りだけが辺りを支配し、その静けさには一抹の神々しさすら感じるのである。
このチンチロリンダイジンサンは、自らを信仰する深堀集落に向かい、南に向かって建てられており鳥居から眺める風景はまた格別である。
この、街の喧騒からは遠く離れた深堀の地で、今日もチンチロリンダイジンサンは村人達を見守りながら、静かに、かつ厳かに山深くにたたずんでいるのである。