厚木市とは言っても喧騒華やかな雰囲気の本厚木から遠く離れ、岡津古久という地域に来ると、町が一つ入ってしまいそうな広大な面積を誇る日産テクニカルセンターがある。
もちろん日産テクニカルセンターの構内には部外者は入れないが、そのすぐ脇に山を切り開いた交通量もまばらな道路があり、西側の四角がいわゆる津古久峠と呼ばれている。
この地は古くから交通の要所であり、今は日産テクニカルセンターに寸断されたものの大山詣でのルートであり大山を信仰する数多の人々が行ききしたばかりではなく、「神奈川中世城郭図鑑」によれば近隣には岡津古久城なる小さな城砦があり、その詳細な歴史は分からないものの地域には「城山」の地名が残っているという。
実際に岡津古久の津古久峠を訪れると、そこには説明板も足を止める人もなく、ただ一基の石碑のみが静寂の中にたち、ときおりセキレイがとまっては周囲を見渡している。
このように地味ながら歴史感のある岡津古久であるが、さらに歴史を古くさかのぼると、古事記や日本書記にまでさかのぼり、伝によれば日本武尊(ヤマトタケル)が東国に東征にきた時、ヤマトタケルが国造に騙されて焼き討ちにあい、剣で草をなぎ倒して難を逃れたという峠だという。
今では足をとめる人もなく近隣の企業の車がけたたましく通り過ぎるだけであるが、このような目立たないところにも深い歴史と伝説が残されていることに、郷土史というものの奥深さを面白さを感じるのである。