手塚治虫ファンでなくても、一度はその名前を聞いたことがあるのではないかと思います。
直接この作品を読んだことがなくても、医療漫画のさきがけであり、その後には「ブラック・ジャックによろしく」「スーパードクターK」「王様の仕立て屋」など影響を受けた漫画なら聞いたことがある、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ずさんな不発弾処理が原因で重大な障害を負った上に家族を奪われた間黒男(はざま・くろお)少年は家族の復讐を誓い、壮絶なリハビリテーションを続けて運動能力を回復させたばかりか凄腕の医師となり、時には金持ちから、時には貧しい者たちから法外な医療費を取りつつ天才的な手術の腕で治していってしまう。
そして、ついに行われる不発弾処理担当者や家族を捨てた父への復讐劇───。
とはいえ、このお話は一話完結型で、いろんな国やいろんな民族、宗教、国家というしがらみの中で、呼ばれればどこにでも治療に行くブラック・ジャックと、娘であり嫁であり助手でもあるピノコの活躍を描きます。
その患者は多岐にわたりイルカから山猫、頭がイカれてしまった独裁者、文化を禁じる国に生きながら音楽を愛する医師、宇宙人、いろんな難病の人、ミイラ、亡霊、果ては自分まで。
まさに人がいれば治療に行く、呼ばれれば何処にでもいく、といった感じで、その「症例」は数えれば枚挙にいとまがありません。
中でもみうけんが好きな話は、公害病で知能も身体機能も損なわれた女の子を救わんとする「しずむ女」。
家族を捨てた父に呼ばれ、病気で顔が崩れた愛人を美女に変えて欲しいと言われ「もっとも美しい女は、お母さんだ」と母の顔にしてしまう「えらばれたマスク」。
国境警備隊から追われるブラックジャックを介抱したお礼に奇形の顔を直してもらい、嬉しさのあまり街へ出ようとして国境警備隊に狙撃されてしまう女の子の話「オオカミ少女」。
他にも挙げればキリがないのですが、いつ読んでも色あせないドラマ性は素晴らしい。
ちなみに、この漫画を読んだ東京大学医学部の学生たちが「適当な事を描くな」と抗議に行き、「君たちは東大生のくせに、漫画と現実の区別もつかないのか」と一喝されたそうです。
さもありなん。