デートスポットに、お子様の情操教育に、高い人気を誇る水族館。
サメ、エイ、マグロ、クラゲなどいろいろな海洋生物がいるなかで、ひときわ目を引く存在がタカアシガニ。
水槽の前でタカアシガニの細い足を眺めていると、必ず聞こえてくる「これ食べられるのかな」の声。
そうなんです。実は食べられるんです!
いったい、どんな味がするんだろう?
そんなワクワクを胸に秘めてやってきたのが、こちら。
JR桜木町駅新南口を出て、すぐ右にUターンすると見えてきます。
「湘南沖地蟹専門店 ふじ月」さんです。
店内はカウンターが7席+個室4席。
2024年7月にオープンしたばかりとあって、清潔感のある一枚板のカウンターが良い香りです。
まだ開店したばかりなのに、店内は満席状態。
店内の写真を撮ろうと思いましたが、満席なので次の機会に・・・。
今回いただくのは、「あの」タカアシガニをまるまる楽しめるコース。
◆タカアシガニコース(15000円)でお願いいたしました。
※税・サービス料は別
そもそも、タカアシガニってどんなカニ?
みうけんも、大将に聞いてみました。
タカアシガニは、太陽の光が届かない深海に生息するカニ。
相模湾は周囲の海に比べて深度が深い海ですが、その200〜700メートルの海域に住んでいるそうです。
タカアシガニって、美味しくないんでしょ?
水っぽくて、大味で、べちゃべちゃしたイメージ。
どうしても、そんなイメージが先行するタカアシガニ。
しかし、それは底引き網で乱暴に捕まえ、死んでしまったタカアシガニの場合。
こちら「湘南沖地蟹専門店 ふじ月」さんが扱うタカアシガニは、たった一軒だけ残ったカニ専門漁師「稀陽丸」さんが、絶対に傷をつけないように、カゴを使って1匹1匹ていねいに漁獲。
さらに、漁獲した後もジュウタンを引いた生簀の中で水温を徹底して輸送し、お店でも生簀の水温管理にはもっとも気を遣って、常に最良の状態で活かされています。
まさに、タカアシガニは鮮度が命。
ここ「湘南沖地蟹専門店 ふじ月」さんでは、その鮮度管理をもっとも大切にされて、タカアシガニを最高に美味しい状態で供されるのだとか。
タカアシガニは、日本近海を主な生息圏とする、日本のご当地ガニ。
そんなタカアシガニの美味しさを、もっともっと日本人の方々にリーズナブルに知っていただきたい。
そんな思いを込めて、あえて地価の高い東京を避け、ここ桜木町に出店されたのだそうです。
では、漁師さんと大将の「アツい」想いを込めたタカアシガニコース。
さっそく頂いてみました!
◆三千盛 純米大吟醸
香り高い超辛口、との謳い文句が頼もしい。
お口に含むとキューーンと響く日本酒の爽やかな香りに、お口の中に響き渡る爽やかさがたまらない一献。
▼先付け
タカアシガニの身と蟹味噌の和え物です。
もう、先付けからケシカラン美味しさです。
たっぷりの蟹味噌を用意して、弱火でじっくりと極限まで煮詰めた逸品。
味付けもせず、出汁も一切いれていないという、まさに蟹味噌そのままの風味。
プリッとしたカニのほぐし身と、あまりの濃厚さにお口に入れた瞬間に悶えられる蟹味噌。
極限まで凝縮された旨味は、お口の内側全体にビシバシ響いてきて、ついついドリンクが進んでしまいます。
▼小鉢
味わいを整えた加減酢に、蟹のほぐし身・長芋素麺・もずく・酢取茗荷を盛り付けたもの。
暑い夏にサッパリと涼しく、シャキシャキとちゅるんの食感も小気味よく、適度な酸味が食欲をそそる酢の物ですねぇ。
▼煮物椀
蟹しんじょに蕎麦実の餡をかけたもの。
その見た目も豪華ながら、白身魚と丁寧に合わせた蟹の身もまた豪華です。
蟹しんじょはプリッとしており、スプーンで切ろうとすると力強く弾き返してきます。
お口に運ぶと、ものすごい弾力とともに広がる蟹の旨味、甘味が実に秀逸。
蕎麦の実はプチッとした食感が楽しめて、優しい甘味。
優しい甘味と、しっかりした旨味がお互いに補完しあって、実に最強のコンビネーション。
▼八寸
合鴨の燻製と焼きねぎ、稚鮎の唐揚げ、蟹の棒鮨(舎利に蟹味噌)、蒸した蟹を一晩コブ〆にしたもの、万願寺とうがらしの焼浸し、つぶ貝味噌田楽、蟹と生ハムの和え物。
海の幸と山の幸が一堂に会して、これは実に豪華なお膳ですよね。
合鴨の燻製はむっちりとしていて旨味が強い!
ネギとの相性も良いですねぇ。
蟹の棒鮨は舎利に蟹味噌が混ぜ込んであるようです。
プリッとした蟹の身と、こってりと濃厚な風味を持つ舎利がまた秀逸!
▼蟹刺し
タカアシガニの足の中でも、一番太いところを刺身にしていただきました。
さっきまで生きていただけあって、まだ身が動いているところに生命力を感じます。
全体にすだちをかけると、身が花のようにフワッと咲くので、そこをパクリ。
2口目は醤油をたらして、またパクリ。
ただ甘いだけではなく、身の筋肉質をハッキリと感じます。
甘い筋肉質はやわらかなプチプチを感じて、まるで激甘のグレープフルーツを食べているよう!
▼蟹しゃぶしゃぶ
殻がついたまましゃぶしゃぶして、殻を外して供されました。
殻がついたままのしゃぶしゃぶは意外ですねぇ。
火の通し加減をレアとミディアムに分けてくださいました。
レアは、味と香りがぎゅっと濃縮されていて、内側は生なので甘くてトロトロ、そして濃ゆい!
ミディアムは内側まで火を通してあって、旨味がより一層しっかりしています。
食感もぷりぷりだし、身の塩味で頂けるのでタレや醤油がいらないほど。
▼焼き蟹
じっくりと炭火の上で焼かれていく蟹さん。
刺身で、しゃぶしゃぶで、焼いて、と一通り食べられる、まさに「タカアシガニを丸ごと1匹食べ尽くすコース」。
醤油をハケで塗ってあるので、そのままで召し上がれ!
炭火によって殻が焦げる香り、身の旨味が煮詰められた香り。
もう、食べる前からその美味しさが分かるようですねぇ。
食べてみると、驚くほどプリプリです。
お湯の中にエキスが溶け出さないからか、しゃぶしゃぶより香りが強いなぁと思います。
食感も良く、香りもよく。
これもまた焼いてあるからが、旨味がギュギュギュッと詰め込まれている感じがしますねぇ。
▼変肴
蟹味噌のカニクリームコロッケでした。
手前には蟹の殻を煮出して作った、蟹のアメリケーヌソース。
ザクッと割ってみると・・・驚異の、ほぼ蟹味噌!
普通、カニクリームコロッケは真っ白なクリームに蟹の身がちょいちょいと入っているものなのに・・・
この贅沢さは、正直びっくりしましたよ!
そのまま食べてもよし、蟹のほぐし身を添えても、いとをかし。
このカニクリームコロッケは、まさにここでしか食べられない逸品。
ザクッとかぶりつけば、お口の中全体が蟹味噌で支配されていきます!
これはぜひとも食べていただきたい、意外性がありながら渾身のメニュー!
▼止椀
綺麗なお椀に入ってきた御御御付。
滑子の赤出汁とのことですが、この器もきっと高いのだろうなぁ。
しっかりとコクのある赤出しに、ナメコ・麩・三つ葉がたっぷり。
やはり赤出汁は美味しい!
そして、トロッとしたナメコの独特な美味しさと、三つ葉のシャキシャキ感と香りがたまらなく相性が良いのです。
一見どこにでもありそうなシンプルなものですが、実は良く考え抜かれた一杯だなと思います。
▼食事
中川一辺陶作の土鍋による、窯炊き御飯です!
この中川一辺陶の土鍋がまたすごいらしくて、全国の料亭やレストランから引っ張りだこで、納品まで半年待ちはくだらないという、大名物と呼ぶにふさわしいもの!
ツヤッツヤに輝くのは、秋田県産こしひかり。
お寿司屋さんではお釈迦様の遺骨にかけて、最も尊いものの代名詞として「舎利」と呼んでいますが、まさにその通りだなぁと思います。
おかずとして、いくら・湘南シラスのちりめん山椒・べったら漬けがついてきます。
そして、前述したナメコの赤だし。
もう、これだけで立派なお食事になりますよね。
お米がおいしいので、これだけで「ごちそう」です。
もちろん、それだけで終わらないのが「ふじ月」さん。
おかずとして出てきたのは、たっぷりの蒸し蟹のほぐし身。
これは実にぜいたく!
新鮮なタカアシガニは刺身でも、焼いても、蒸してもおいしいのです。
さらに極めつけは、一切の味付けや調味をしないで煮詰めた蟹みそ。
オレンジ色の脂に、その美味しさがギュギュギュギュッと詰め込まれています。
トロッと優しく、ガツンと濃厚な蟹のうまみ。
煮詰めているので極限までうまみを凝縮させているので、これだけでご飯も日本酒もガフガフいけてしまいますねぇ。
とりあえず、ご飯だけで。次に、蟹みそを載せて。
ご飯は圧力をかけて炊いてあるので、フワッとした炊き上がりです。
正直、この蟹みそだけで白米が3杯はいけてしまいそうなおいしさです。
何の味付けもしなくても、凝縮させるだけでここまでオカズ力を発揮するとは・・・
タカアシガニ、実におそるべし。
お代わりは、あえて底の「おこげ」を中心に頂きました。
最近の炊飯器は性能が上がって美味しく炊けるようにはなりましたが、やはり釜炊きにはかなわない。
釜炊きの真骨頂は、そのふっくらとした炊き加減と、このカリカリで香ばしい「おこげ」にあると思います。
蟹のほぐし身を載せて、蟹みそを載せて。
続いてはイクラやちりめん山椒で味変をしていただくのも、また良し。
ご飯はたっぷり2合ありましたが、そのあまりの美味しさに残すことができず。
妻ちゃんと2人でほぼ平らげてしまい、帰宅後に苦しくて居間に倒れこんでしまうほど頂きました。
▼水菓子
季節の果物ということで、三浦半島のスイカでした。
なんといっても器の感じが涼しいのが良いですよね。
タカアシガニをはじめ、食材にもなるべく神奈川県のものを使い、地産地消に努めておられるそうです。
その心意気、神奈川県民としては実にうれしい限りです。
出てくるお茶ですら、伊勢佐木モールで明治年間創業という老舗のお茶屋さん「川本屋さん」から仕入れられているそうです。
その地元を愛する気持ち、地元を味わう気持ちは称賛しかありません。
このお茶は冷たくてスッキリとした甘みのあるお茶。
濃厚で、旨味が深いタカアシガニをまるまる一匹いただくコースの〆にふさわしい、洗練されたお茶でした。
◆◇◆後記◆◇◆
今回訪問したのは、桜木町駅前に今月オープンした「湘南沖地蟹専門店 ふじ月」さん。
静謐で清潔感のあるカウンターは、もちろんフルオープンキッチン。
抱えるほどの大きな蟹さんをザバーーーッと生け簀からだし、まだ生きている状態で豪快に足を切り落とし、さばいていく光景はまさにエンターテインメント。
ここ「ふじ月」さんでは、さらに高級なイバラガニも用意されています。
イバラガニは海外では「ゴールデンキングクラブ」と呼ばれて珍重される高級食材で、なかなかお目にかかれない貴重なもの。
少々値ははりますが、一生に一度はお試しいただきたい美味しさです。
ここ「湘南沖地蟹専門店 ふじ月」さんでは、地元で採れる本当においしいものを、地元の方、ひいては日本人の方に味わってほしい。
大味で美味しくないと固定観念を持たれているタカアシガニの本来のおいしさを一人でも多くの人に知ってもらい、ファンになってほしい。
そのために、銀座などの都内をさけて、あえて地価が安い横浜に出店し、その分リーズナブルに味わっていただきたい。
そんな「アツい」想いを込めて開店されたのだそうです。
神奈川県民にとって、実に身近な海である相模湾。
海水浴やサーフィンのメッカとして親しまれてはいますが、おいしい海鮮が採れる良質な漁場であることも、多くの皆さまに知っていただければこれほど嬉しいことはありません。
お試しを!
再訪希望値:★★★ 是非とも行きたい
【みうけんさんおススメの本もどうぞ】
※食べログでは表示されません
★☆食べログもごひいきに願います☆★