今日の映画です。
今回見るのは、昭和37年(1962年)公開の日本映画、「秋刀魚の味」です。
これは、戦前から戦後の日本を代表する映画監督、小津安二郎監督の実質上の遺作でもある作品です。
◆◇◆あらすじ◆◇◆
戦争も終わり、繁栄華やかなる日本。
大手企業の重役である平山周平(笠智衆)は、年頃の長女の路子(岩下志麻)、次男の和夫(三上真一郎)との三人暮らしをしていました。
平山は、旧制中学以来の友人である河合(中村伸郎)が長女の路子に縁談話を持ってきても「まだそんなこと考えてないんだ」と軽く流すだけで、周囲がいくら推しても娘の縁談話を聞こうとはしませんでした。
そんなある日、恩師のひょうたん(佐久間:東野英治郎)が近くにいるという話があり、せっかくだからとクラス会に恩師を呼びます。
この恩師が、婚期を逃してすっかり中年になってしまった娘(杉村春子)と2人でわびしく暮らしているのを知ったことで、主人公は娘の結婚について真剣に考え始めるのです。
しかし本人の路子は、縁談話を持ちかけられても聞く耳を持たない。
それもそのはず、路子には密かに想う人がいたのです。
その相手は、長男の幸一(佐田啓二)の同僚である三浦(吉田輝雄)でしたが、三浦にはすでに恋人がおり、あえなく恋破れます。
そして、とうとう路子は縁談をうけ、花嫁となる姿を父に見せるのです───。
◆◇◆感想◆◇◆
この映画は、ハラハラもドキドキもしない、ただひたすら静かに時間が流れていくヒューマンドラマの最たるものでしょう。
主人公の笠智衆の演技が実に物静か。
若干セリフが棒読みなのかな? とも思いますが、それもまた「味わい」なのでしょう。
この映画のテーマは、まさに「老い」と「孤独」。
そのテーマをさらに強調し、印象づけているのがひょうたんセンセイこと、東野英治郎です。
この東野英治郎という人、本当に昭和の名優だと思います。
さらに特筆すべきは、主役の笠智衆を支える友人たち(中村伸郎、北竜二)。
この2人の昭和感が、実にグッとくる。
今どきはあんなオヤジさん見なくなりましたからね。綺麗な七三分け!!
そのオヤジたちが居酒屋では居酒屋の女中に、はたまた職場では女性社員にと、セクハラ発言のオンパレードとは!!
ラーメンのことチャンソバとか言ってるし!!
そういやうちの爺さんも言ってたような。
良い意味でも悪い意味でも、「昭和のオヤジたち」を観るにはもってこいの映画です。
その他にも昭和を代表する名優が目白押しの豪華な映画ではありますが、その中で、特に気に入っているのが主人公の長男である幸一(佐田啓二)の妻、秋子(岡田茉莉子)。
実にキレイで、昭和美人と呼ぶにふさわしいですよねぇ。
ちなみに、この映画のタイトルは「秋刀魚の味」。
しかし、映画にはぜんぜんサンマなんて出てきません。なぜ秋刀魚の味なのか。
この映画を作った小津安二郎監督は秋をテーマにしたタイトルの映画を多く作っており、とくに深い意味はない、と言われています。
ただ、佐藤春夫さんの作った
あはれ 秋風よ 情(こころ)あらば伝へてよ
男ありて 今日の夕餉(ゆうげ)に ひとり
さんまを食らひて 思ひにふける、と───。
という「秋刀魚の歌」に、その答えが隠されているような気もします。
また、映画とは全く関係なくなってしまいますが、娘を嫁にやってしまった父親の寂しさと悲哀は、みうけんが好きな漫画「杯気分! 肴姫」の4巻に、「秋刀魚 苦いか・・・?」という話でも取り上げられています。
作者の入江喜和さんも、この映画を見てこの漫画を描いたのかな。
興味ある方は、一度読んでみてくださいな。