今日の映画です。
今回見るのは、2021年(令和3年)公開の日本・インドネシア合作映画「トゥルーノース」(True North)です。
これは北朝鮮の強制収容所の実体を生々しく描いた3Dアニメーション映画です。
監督は清水ハン栄治。
◆◇◆あらすじ◆◇◆
ある日の北朝鮮・平壌。
戦後の在日朝鮮人の帰還事業によって、日本から北朝鮮へと帰った在日朝鮮人の夫婦。
その夫婦には、兄のヨハンと妹のミヒがいました。
一見何の不自由もなく幸せに暮らす一家でしたが、ある日突然、父親が政治犯の疑いをかけられて逮捕されてしまいます。
家族が罪を犯せば連帯責任とばかりに一家は拘束されて、それまでの暮らしぶりから一転、過酷な強制収容所での生活を強いられます。
最初は素直だったヨハンも、月日が経つにつれて冷酷な性格へと変わり、「監視される者」から「監視する者」へと変わっていきます。
他の収容者から恨まれるのも厭わないヨハンでしたが、母の死をもってようやく本来の優しく前向きなヨハンへと生まれ変わろうとしていきます。
月日も経ってミヒが成長するにつれ、収容所を監督する警備隊員(軍人)に目をつけられ、とうとう強姦されてしまいます。
なすすべもなく、圧倒的な権力の前に仲間が次々と死んでいく中、ヨハンは自らを犠牲にしてミヒと、自らの幼なじみでありミヒの夫となった新しい「家族」を逃すことを決意するのです───。
◆◇◆感想◆◇◆
この映画は、北朝鮮の強制収容所の実態を3Dアニメで描いた作品です。
清水ハン栄治監督によって10年という長い歳月をかけ、収容体験を持つ脱北者たち約30人に取材を行いつつ制作したという、実に気の遠くなるような制作過程を経た作品です。
この清水ハン栄治監督も、実際に在日韓国人1世の父(故人)をもち、在日韓国人3世の母をもつ人だそうです。
横浜で育つなか、祖父からは「悪いことをすると収容所に送られるよ」と言われて育ったといいます。
この映画は、会話はすべて英語でなされ、画質も現代では古臭くなってしまった3Dアニメをあえて使っています。
それがまた、非現実なのか現実なのかを曖昧にさせてくれたなと思います。
実写ではリアリティがありますが、どこか画面の中にある別世界であり、いつしか忘れてしまいます。
しかし、あえて古臭い画法を用いたことによって、まるで幼い頃に読んだ絵本をずっと覚えているような、記憶の深部に突き刺さった映画だなと思います。
作中、強制収容所の中で、日本から拉致されてきた女性が息絶えるシーン。
在日朝鮮人の父母を持つミヒは、ここで胡弓を弾きながら「赤とんぼ」の歌を歌います。
英語以外の言語が出てくる唯一のシーンですが、日本から拉致されてきた日本人女性を慰める在日朝鮮人という、「日本」がキーワードになったシーンでもあり、それを空虚に見つめる他の囚人たちの表情もグッときます。
この映画に出てくる出来事は、決して昔話でも、歴史の教科書に書かれていることでもありません。
今でも、現在進行形で強制収容所の地獄は続いているとされています。
平和な日本にいると分かりませんが、今でも世界中のいろんなところで、前時代的な民族虐殺、民族浄化、独裁政治が行われ、その結果として虐殺と粛清が蔓延っています。
日本人は、もう少し世界の現実に目を向けるべきだと思います。
日本人だけではなく、世界じゅうの人々が、この現実にもう少し興味を持って、今も苦しみ続けている人たちのために声を上げていくことができれば、と思います。
また、この映画は強制収容所に収容された側から見た北朝鮮が舞台です。
その一方で、彼らを虐待する側にあった警備隊員(軍人)が脱北の末に書いた本も必読です。
1日も早く、絶望が支配する強制収容所で暮らす方々の身に、解放と安寧が訪れますように。