厚木の名所、七沢温泉郷をぬけ、山奥に向かって原付を走らせていました。
この辺りまでくれば人家もなく、周囲は鬱蒼とした木々に囲まれて昼なお暗く、道路はところどころ濡れてまさに深山幽谷といった趣です。
これで、ヤマビルさえいなければ丹沢大山はもっと良いところだよなぁ、と思いつつ原付を走らせていくと、やがて道は二股に分かれていました。
向かって左側へと延びる道には、その入り口に「弁財天 参詣道」と陰刻された昭和5年の道しるべがひっそりと建っています。
野生生物の出入りを阻むためのゲートを開けて中に入ると、さらに道が伸びています。
分かれ道から700メートルあまり進んでいくと、右手に簡素な鳥居と立派な石碑が見えてきます。
ここが、大釜弁財天の入り口となります。
足元が大変すべりやすいので気を付けながらおりていくと、すぐ足元には滝が流れています。
流れはいかにもな清流で、激しく流れ込む滝の下には大きな滝つぼができています。
本当に滑落には注意です。
ここに落ちたら、なかなか助けは現れないと思います。たぶん。
自力で上がるのも大変そうです。
この滝つぼが、まるで釜のようになっているから大釜弁財天というのだそうです。
自然の造形美というものは、まさに唯一無二。
首都圏から近い神奈川にも、このような小さな秘境はたくさんあるという事を、今さらながらに思い知らされます。
すぐわきには洞窟があります。
洞窟の入り口には、「記念 大釜辨財天 雨乞祈願成就 昭和八年九月 七澤區民」とあります。
昭和と言ったら戦争前とはいえ、だいぶ文明も発達したころですが、その頃もここで雨乞いの祈願が行われていたのでしょう。
洞窟の奥には、小さな石祠と宇賀神が祀られていました。
宇賀神は日本版の弁財天像です。
一般的に女性の姿で琵琶や宝剣をもつものが、インドのサラスヴァティを起源とする仏教型の弁財天。
日本神話の宇賀神を起源とする弁財天は、蛇の体に人間の頭を持っているものが多く、ひげを生やすなど老爺の顔をしていることもあります。
奥に入ろうとしたら、足元まで水が流れていたのでやめておきました。
ここで足を濡らしてもよいことがありません。
すべりやすくなって転ぶか、ヤマビルが昇ってきやすくなって喜ばせるだけです。
入り口のところで、両手を合わせてから写真を撮らせていただきました。
ふと後ろを見ると、どこまでも続く神秘的な森。
ほんとうに美しい神奈川県の姿です。
その時に、足元を見るとヤマビルが猛ダッシュで駆け寄っているところでしたので、こちらも猛ダッシュで退散したのでした。
この大釜弁財天は、少し調べてみましたが、これといった伝説などはみられません。
ただ、いつのころか雨乞いの神さまとして祀られ、いまなお毎年4月の巳の日には祭礼が執り行われているという事です。
この場所は日々の喧騒を忘れさせてくれる、とても美しく良いところです。
ヤマビルさえいなければもっと素晴らしいのですが、夏ならではの清涼感あるツーリングを楽しむことができたのでした。
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