横浜市北部を縦断する第三京浜道路の都筑インターチェンジの南側は、横浜市港北区新吉田町のなかでも「神隠(かみかくし)」という字がついているところである。
横浜とはいっても、この辺りは元々はのどかな農村地帯であったが、港北ニュータウンの開発が進み横浜市営地下鉄が開通すると急速な発展を見せ、着実に家が増えてかつての面影はなくなりつつある。
この辺りでひときわ目立つのが、東急バスのバス停でその名も「神隠」である。
なぜこのあたりが神隠と呼ばれるようになったのかは諸説あり、これといった決定的な結論は出ていないようである。
ただ一つ言えることは、この辺りはかつて山深い密林の中を横浜市特有の地形であった谷戸田が縫うように食い込んでいたところで、夜ともなればとても寂しいところであった。
そのために、戦国時代の武将であった武田信玄が関東に攻めてきた際に、家臣であった山本勘助が守り本尊を隠した場所であるとか、このあたりに逃れてきた落武者が身を隠すのにちょうど良いところであったからついた名前であるとか、いろいろな説があるのだという。
神隠しというと、宮崎勤監督のアニメ映画である「千と千尋の神隠し」にも出てくる言葉で、「ある日突然、人が煙のように消えてしまった」という現象をさす。
今でこそ神隠しという言葉はあまり使われなくなったが、そのような事例は現代でもいくらでも起きており、最近(2019年)では山梨県のキャンプ場で女児が行方不明になるなどしているが、みうけんも子を持つ親であるのでこのような事件が起こるたびに、実に心が掻きむしられるほどに痛むことこの上ない。
それでも、行政は何を思ったか、近くには神隠公園などという、子を持つ親としては絶対に子供を遊ばせたくない名前の公園まであるのが興味深い。
実際には何の変哲もない小さな児童公園である。
しかし、こういう何でもないところで突如として人が消えてしまうのが本来の意味の神隠しであるから、いかに昔の地名を大切にするとはいえ、この名前を公園の名前にそのまま使うのもどうだろうと思ってしまうのはみうけんだけであろうか。
この神隠という地名が残るところで、かつてどんな事が起き、このような地名がつけられたのであろう。
現代では多くの人が平和に暮らす、何てことない閑静な住宅街なのに。
そんな事を考えているうち、急に背筋が寒くなるのを覚えて、そそくさとシグナスのエンジンをかけて立ち去ったのであった。