JR相模線の無人駅である宮山という駅から歩いて15分くらいのところにあるのが、相模国の一之宮としても名高い寒川神社である。
ここは、個人的な話だが細君が信心しているので、よく厄除けや行事に訪れるが、広くて清々しい境内と、穢れを一切寄せ付けない神々しさは特筆すべきものがあろう。
その、寒川神社の境内の片隅には半ば苔むした巨大な石が飾られているが、よく見れば小さな石がたくさん集まり固まったものであり、これこそは国歌「君が代」に出てくる「さざれ石」なのである。
この君が代は、言わずもがな「古今和歌集」の中から「読み人知らず」として紹介されている和歌であり、世界に数ある国家の中でももっとも古い歌詞として知られている。
もともとは「君=愛する人、祝福を受ける人の幸せな人生」を願った和歌であったが、しだいに「天皇による治世」を奉祝する歌となったとされている。
この、「君が代は千代に八千代にさざれ石の巌(いわほ)となりて苔のむすまで」という歌詞に出てくる「さざれ石」は、小さな石が集まり成長して大きな岩となったもので、小さな石が集まって苔が生えるまでの悠久なる時の流れを現した、いかにも美しい日本的な表現といえよう。
この寒川神社の「さざれ石」は、平成28年9月に横浜市中区に本社を置く横浜貨物綜合株式会社という海上輸送専門の会社の代表取締役社長、佐藤俊哉氏によって奉納されたもので、学術的には「石灰質角礫岩」といって雨水によって溶解した石灰質が周囲の小石を凝結しながら成長し、それがのちになって河川の浸食によって地表に露出したもので、現在は君が代の歌詞の通りに苔むし、日本国と国民が共に千代に栄えるよう願った慶賀の石であるのだという。
いま、この苔むしたさざれ石に向き合って悠久の時を感じるとき、この地に永くあって多くの民衆から愛され崇敬されてきた寒川神社と、日本国国民がみな幸せであるようにと願われたさざれ石がともに歩んできた悠久の時間が、いまここに思い出されてくるようである。