横浜市南部の戸塚駅から南側、戸塚公会堂や戸塚小学校をこえたところのマンションの一角に、竹垣で区切られた一角の中に石碑や蛇神像が並んでいるところがあり、ここは地元では「妙見様」と呼ばれて親しまれている。
脇には簡素な木札が建てられており、風雨に打たれてその文字が消えかかってはいるものの、「妙見様 妙見の本源は北斗七星である この妙見様は蛇が絡み亀に乗った妙見といい三王信仰の神様で災難を避ける神様です」との説明がなされている。
妙見様、その名は正式には妙見菩薩(みょうけんぼさつ)といって、仏教において北極星や北斗七星を神格化したものである。
通常、仏教では阿弥陀様やお地蔵様、観音様といった仏像を崇敬するものと思いがちだが北斗七星なども崇敬の対象であるし、みうけんがよく行く弘明寺観音の観音護摩行では、北斗七星のご真言を唱えたりもするのである。
もともとはインドで発祥した仏教が、中国を経て日本に伝わる過程で、中国の道教の北極星・北斗七星信仰と習合たものが日本に渡来して信仰されるようになった。
古代中国では、北極星は天帝、すなわち天皇大帝とされて仏教思想が混合し「菩薩」とされて「妙見菩薩」と称するようになった、とされている。
「妙見」というのは類まれなる眼力をもち、すべての道理や心理、人々の善と悪を見抜く力であるとされている。
また、東西南北の方位の守護神があるが、北は玄武と呼ばれる中国の想像上の神獣で、足と首の長い亀に蛇が巻きついた姿である。
また、北斗七星のひとつである破軍星(はぐんせい)=アルカイド星の影響から、妙見菩薩は軍神としての性格も持つようになる。
古来より、この星を背にすると必ず戦に勝つと信じられ、密教経典において薬師如来は破軍星の化身でもあることから薬師如来と同一視する考えもあるようである。
北斗七星たる妙見菩薩の使いは北を象徴する玄武であり、ここの妙見様にもところどころに亀と蛇があしらわれているのが見て取れるのである。
この、戸塚の妙見様がいつ、どのようにして設置されて、どのような形で信仰されてきたのか、図書館などを巡って調べてはみたものの残念ながら有力な資料は発見できなかった。
しかし、軍神でもある妙見様は、ずっとここにあって東海道を守り、民衆たちの生活を見守り続けながら、今もたくさんの花々にかこまれて時折手を合わせて挨拶する人がいるほどの、戸塚の人々の生活の一部となっているのである。