韓国の歌を聞いていると、ごくたまにですが「スリ・スリ・マスリ」(수리수리마수리)といった、日本人には意味不明な一文が出てくることがあります。
例としてカヤランさんの、その名も「スリスリマスリ」
また、女性から人気の東方神起さん、「スリスリ」
TVXQ! 동방신기 '수리수리 (Spellbound)' MV
一時期大流行したテクノ歌手、イ・ジョンヒョンさんの「スリスリマスリ」
이정현 (Lee Jung Hyun) - 수리수리 마수리 (SuriSuri Masuri / Hocus Pocus) (3집 Magic To Go To My Star)
とまぁ、他にもいろいろあって、全部あげていくときりがありません。
それくらい韓国の歌には良く使われていて、韓国人には馴染みのある言葉なんですが、日本人の私たちにはほとんど意味不明ですよね。
実際に、Googleでも検索ワードに「スリスリマスリ」と入れると、「スリスリマスリ ススリサバ 意味」と出てきます。これはおそらく、東方神起さんのファンのかたがたが検索したものではないでしょうか。
この「スリスリマスリ」という言葉、かつてみうけんも「何だろう?」と思って検索した事があります。そのときは「言葉自体には意味はない、ただのおまじない」だとか「アブラカダブラみたいな言葉」といった、ふんわりとした答えしか出てきませんでした。
しかし、この「スリスリマスリ」という言葉にはしっかりとした由来や意味があります。
では、いったいどういう意味なのか?
そして、この言葉がなぜ好んで韓国の歌の冒頭に歌われるのか?
それをじっくり、ここで解説していきたいと思います。
まず、この「スリスリマスリ」という言葉は仏教のお経です。
韓国人のうち、半分近く(43%)は無宗教ですが、キリスト教徒は34%、仏教徒は24%にのぼるそうです。(wikipediaによる)
その、国民の4分の1を占める仏教徒たちには敬虔な人も多く、韓国のお寺に行けば仏像にむかって何回もひたすらお辞儀をする人たちを多く見かけることができます。
そんな仏教徒たちが愛してやまないお経が、日本でも有名な「般若心経」。
そして、もうひとつは「千手経」(せんじゅきょう)というお経です。
この「千手経」の冒頭に、この「スリスリマスリ」という言葉が出てくるのです。
冒頭だけでいいので、ちょっと聞いてみてくださいな。
どうでしょう? 確かに「スリスリマスリ ススリ サバハ」と言ってます。
正式には「スリスリマハスリ ススリ サバハ」です。
阿弥陀如来だけではなく、仏教にはいろんな仏さまがいます。
日本で有名なのはお地蔵さま、お不動さま、観音さまなどがあり、そのうちの千手観音という観音さまには千本の手があるのです。
その手にはなんと目がついていて、その千本の手と目を使うことにより、困っている人を絶対に見落とさず、手から離すことなく、必ず救ってくださるという、ものすごい観音さまです。
いまだに日本では根強い人気があります。
(葛井寺 千手観音菩薩坐像)
この「スリスリマハスリ ススリ サバハ」が入っている「千手経」というのは、要するに「千手観音さま、あなたはすごいです!あなたを信じます!だから救って!!」ってな内容のお経なんですが、その前に「浄口業真言」というものを3回唱える決まりになっています。
人間、誰しも罪を犯します。
自分は大丈夫だと思っているアナタ。
もしかしたら、短い横断歩道で車が来ないからと、赤信号でもササッと渡ったりしてませんか?
道で100円玉を見つけて、つい自分のポケットにしまったりしてませんか?
会社や学校をズル休みしたくて、熱を出したとウソをついていませんか?
人が生きていくうえで、絶対に罪を犯さない、なんて事はないんだそうです。
誰しも小さな罪を犯す。ウソをつく。
でも、そのままじゃ恥ずかしくって仏さまにお願いなんてできやしない。
そうだ、この汚れを洗い流してしまおう!!
というわけで生まれたのが、この「浄口業真言」というものです。
もともとはサンスクリット語の音だけを拾ったものですが、韓国の仏教サイトで調べたところ、以下のような意味がこめられているそうです。
「スリ」というのは吉祥天という仏様(神様)の名前。美、清浄、幸福、富を象徴する。インドでは吉祥天を「シュリー・マハーデーヴィー」と呼び、「シュリー」がなまって「スリ」となった。前科に対する謝罪の念(吉祥悔過・きちじょうけか)をもつかさどる。
「マハ」というのは「大きな、偉大な、広大な」という意味。
「ススリ」というのは「この上ない、至極な」という意味。
「サバハ」は「円満に達成できますように」という意味。
ですから、「スリスリマハスリ ススリ サバハ」というのは
「吉祥天よ、吉祥天よ、偉大なる吉祥天よ。この上なく円満に達成できますように」
という願いがこめられているのだそうです。
これを3回唱えることによって、美、清浄、幸福、富を象徴し、さらに前科に対する謝罪の念までつかさどっちゃう偉大な吉祥天が、今までの私たちの口から生まれた罪や汚れを洗い流して、願いを聞いてくれる手助けをしてくれる。
これによって、初めてお経を唱え、仏さまに語りかける資格を得ることができる。
日本の仏教でも、お経の最初に「懺悔文」というのを唱えます。
「今までの過ちは、すべて私の愚かさや無知からきています。それらをすべて悔い改めます」という感じのお経なんですが、韓国でも日本でも、お経を唱えてお願い事などをする前に、まず自分の罪の深さを恥じ、悔い改めるところから始まるのです。
それらが仏教徒ではない人にも浸透していき、お願い事をする前に「スリスリマスリ」という呪文を唱えるようになったそうです。
韓国人は決して試験に落ちないように、と受験前にアメ(アメは良く張り付くから)をなめたりといろいろ縁起をかつぐので、「スリスリマスリ」も浸透していったのでしょうね。
でも、仏教徒でもない人は仏教の呪文の意味なんてあまり深く考えません。
キリスト教徒ではないみうけんが、「アーメン」の由来を知らないように^^
また、多くの人がお礼、お願い、お詫びをするときに手を合わせますが、なんで手を合わせるのか? を正確に答えられる人はいかほどいるでしょう。
そんな感じで、多くの人が「スリスリマスリ」の意味を質問し、また多くの人はテキトーに「意味がない呪文」と答えてしまったのだと思います。
それでも、多くの場合お願い事をするときや、救いを求める気持ちの時になんとなく唱える言葉であることから、恋だの愛だのといった歌の前でも歌詞の前に「スリスリマスリ」とつけているように思います。
そのほうが、なんとなく願いがかなうような気分になるのでしょう。
こうして考えると、とても深い言葉なんですが、みんなが気軽に唱えているスリスリマスリ。
こうしてみると、韓国の言葉や文化もなかなか面白いんだな、と思います。