大韓民国、第二の都市である釜山市に、ソミョン(서면)という駅がある。
2014年の秋、この地を訪れた時に駅前に宿をとった。
一泊1500円。여관と書いて旅館(格安宿)という意味もあり、女館(売春宿)という意味ももつ時もある。
泊まる時に、受付のお婆さんに「女の子は呼ぶか?」と聞かれたので丁重に断ったら変なヤツ!という顔をされた。そう、この街はもともとそういう街でもあるのだ。
だがみうけんにはその必要はなかった。もちろん女性は好きであるが、金を出して女を買うという行為は、どうも好きになれない。病気が怖いというのもある。
それよりなにより、好きでも何でもない、初めて会う女性。
名前も知らない人と、いきなりそんな事が出来るわけがないのである。こればかりは個人の好みというか指向なので、いかんともしがたい。
そんなみうけんは、もちろん一人で泊まるのであるから、これ見よがしにベッドに置かれた2つの枕がなんとも痛々しい。
ただし、日中は友達と遊ぶことにしている。
日本人の友達もいるが、韓国人の友達もいる。だから当然、韓国に行けば韓国人と遊ぶ。いや、友達を通り越して相手が年上なら兄貴、姉さんと呼ぶし、相手が年下であれば妹、弟である。それくらいに絆が深い親友が何人かいる。
一緒に物見遊山をし、屋台でおやつを食べて、カラオケに行ったり焼き肉を食べたり、朝まで語り明かしたり。
でも、どうせ一緒に会って遊ぶなら、女の子のほうが良いに決まっている。
この日も妹のひとりにたくさん遊んでもらい、酒を飲んでバイバイすると、みうけん一人で宿に泊まりに来た。それが先ほどの宿だ。
荷物を置きシャワーをし、ビールを買いたくなり裏手に出ると、なんとも不思議なオーラを放つ路地があり、なんとなく入ってみると、そこには摘発され解体されつつある売春街がどこまでも続いていた。
少し前のラップ歌手、「ドランクンタイガー」の「俺はお前のために」というミュージックビデオに出てくるような売春宿は国鉄駅や軍部隊の近くにはよくあった光景だ。
外界から遠く閉ざされた禁欲の世界、軍隊があるところには決してなくてはならない存在で、このような売春宿は朝鮮半島が日本の一部だったころにはすでに形成されていたのである。
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ソウルオリンピックを境にかなり「浄化」され、まるで横浜の黄金町のように「何もなかったかのように」姿を消していったが、今なおソウルの何か所かでは現役だったりするし、地方に行けば街にはかならずいかがわしい店があるから、この産業がいかに世間に根強く根差しているかがわかるであろう。
そう、かつてはこのソミョン地区もそうやって生きてきた人たちがたくさんいたのだ。
そして、今でも隠れた所にはいるのだろう。
廃墟と化した古い売春宿に殴り書きされた「撤去」の文字が、実に物悲しく見えてくるのである。
こんなところ、普通なら入っていかないだろう。
日本だって、このような売春窟はやくざが仕切っていたのである。横浜の黄金町にだってまだ事務所は残っているくらいだ。
横浜のやくざなら多少顔もきくが、韓国には組織暴力輩という集団がいる。これは日本のやくざよりも始末が悪い。
よく、ソウルの隅のヨンドゥンポという街にいったものだが、この街もあまり治安はよろしいものではなく、貧乏人とやくざ、そして酔っ払いと商売女ばっかりの街であった。
そのようなやくざが、ここにいても何ら不思議なことはないのである。
それでも吸い込まれるようにして路地に入っていく。韓国というところは、少なくともみうけんにとっては自分の家のようなものであったが、どんな路地にも入っていったものである。これは皆様は自己責任で。
奥まで行って、実に驚いた。
もはや、ごみ溜めと化した路地裏。そして、右手のビルの上階からは女性の話し声が聞こえてくる。話し方や内容からして、そういう商売をしている女のようだ。
やはり、この街では何らかの方法をもって、このような商売がなお続いているのである。
誰とも知らぬ男に、親からもらったたった一つの体を売らなければならない女性たち。
好むと好まざるに関わらず、どこの国にもそのような女性がいるものだ。
韓国も日本も、どれほど発展してどれほど豊かになろうとも、この法則は決して変わることなく、形を変え場所を変え受け継がれていく。なんとも因果なことである。
そんな事を考えながら、ひとり宿の安っぽいベッドでビールを飲む秋の夜長であった。