京浜急行の終点三崎口駅から駅前の通りを北上し、初声市民センターの脇を流れている小さな流れをさかのぼる。この流れは一番川という川で、しばらく川に沿って上っていくと「風早(かざはや)」と呼ばれる谷戸に出るあたりで川と道が分かれるので、細い路地を左に入っていくと一面のキャベツ畑の脇を歩くことになる。
その路地の路傍にはまるで猫が寝ているかのように見える自然石と、「猫石園」とだけ書かれた小さな石碑を目にすることができる。
この石碑は大正十一年(1922)に「初声村史蹟名勝保存会」が建てたものとされ、その脇には長さ約4m、高さ約2m、幅約2mほどの大きな石がたたずんでおり、これが不思議な猫の伝説を今なお伝える「猫石」と呼ばれる石である。
一見するとただの奇跡のようであるが、言い伝えによるとこのあたりは昔は一面の田んぼで、稲や穀物が数えきれないほどのネズミに荒らされ、村人はほとほと困っていた。
そんなある日、突如としてこの「猫石」が田んぼの真ん中に出現し、ネズミの被害も不思議とぱったりと途絶えてしまったということである。
この伝説はしょうしょう寓話的な部分があるのだが、三浦市観光協会編「三浦の伝説と民話」によれば、この猫石の由来は二つの願いが込められて信仰となっていたようである。
1、このあたりは昔から田園地帯で、せっかくの作物がねずみに食い荒らされぬように猫石に守っていただきたい、という願いからこの石を猫の化身として信仰した。そのせいかこの近辺の部落にはねずみの被害が少ないという。
2.猫石が百日咳(くちめき)から子供たちを守ってくれるという信仰。
その昔、里の親たちは猫石をけずって守り袋に入れ子供に持たせた。そうすれば百日咳にかからないと信仰されていた。おそらく、猫は百日咳にかからない事から生まれた信仰であったろう。
このような奇異な信仰がいつ、いかようにして生まれたのか気になるところだが、「三浦の猫石」という絵本も出ているので、いつか購入してみたいものである。