尾瀬あきら著「ぼくの村の話」全7巻 完結
あえて、表紙写真を2冊分載せました。
1冊目は平和そうな農村で、青空の下で微笑みながら仲良く歩く兄弟。
2冊目は全共闘運動を想起させるゲバスタイルで、機動隊に対峙する、あどけなさの残る少年少女。
この2冊分の写真で、何をテーマに描かれた漫画か理解できた方は相当な知識人か、はたまた実際にヘルメットを被った方か、もしかしてジュラルミンの大楯で投石に耐えた人か・・・
これはやっと平和を取り戻したかのような戦後日本を大きく揺るがした成田空港問題をテーマに描いた漫画で、地名や人名、組織名こそ微妙に変えてあるものの、非常に多くの資料を読み込んで丁寧に描かれたことが伺えます。
千葉県の平和で静かな農村に、突如降って湧いたような空港建設問題。
国の強制的な立退き要請に反発した農民に対する答えは、国家による暴力であった。
農民たちに賛同する人々や学生たちが全国から続々と集まり、圧倒的な力量の差を見せていた機動隊を押し返したばかりか、砦や地下要塞を築き、肥やしや火炎瓶、竹槍を武器に、畑という地の利を活かしながら戦いを挑む。
村に住む者は子供も老人もそれぞれ行動隊を組み、重武装した機動隊に肉弾でぶつかっていく。
その反面、「お上には逆らえねえ。勝てねえだよ」といい、立退きに応じる農民たちも出始めながら、闘いはますます泥沼の様相をみせていく。
現在は海外と日本を結ぶ玄関口として、誰もが利用する成田国際空港。
その空港を、ぜひともGoogleマップの航空写真でじっくり眺めてみて頂きたい。
そこには、一軒の神社や鉄塔、畑を避けて不自然に曲がりくねった飛行機の誘導路があり、世界中のパイロットを泣かせる難所となっている。
これこそが、国の強権に今なお抵抗を続ける農民たちが生き、闘い続けている証でもある。
ところが、この漫画は実に中途半端な終わり方をしている。
公権力が発動され、農民や支援者たちを実力で排除する行政代執行が始まると、反対同盟は拠点の地下に穴を掘ったり、火炎瓶まで使用し始めるが、その力及ばず第一次・第二次の行政代執行が完了したところで、「ぼくたちの闘いはまだまだ続いていく」と言いながら、突然話が打ち切られてしまうのだ。
読んでいる側としては、空港開港直前の過激派による管制塔占拠や、開港した後の飛び立つ飛行機を横目に見ながらの闘争なども描かれると思っていたので、この終わり方はかなり拍子抜けするものであった。
この話を青少年マンガで広めて欲しくない層から圧力がかかったのか、それとも単にマンガとして人気がなかったのか。
他では「闘争の主体が農民から過激派に移っていく時期だから、『ぼく』が主体の漫画では描きにくくなってきたのでは」と分析する人もいたが、あれほどまで丁寧に取材を重ね、研究を重ねた上で丁寧に描きこんでいたのに、なんとも中途半端であっけない終わり方だったのが残念である。